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ゴールデンリーグ ブリュッセル大会
ベケレ、苦難を乗り越えアレムに捧げる世界新記録

敬虔なクリスチャンのケネニサ・ベケレ(23歳、エチオピア)は、十字を切ってゴール後、「ウォー!!」と、物静かな男が感極まって珍しく吼えた。

8月26日、ゴールデンリーグ(GL)最高峰のブリュッセル大会。4.8万人の観衆の大声援をバックに、ベケレがフィナーレを飾るのに相応しい自己の持つ10000mの世界記録(昨年オストラヴァGPで記録した26分20秒31)を破る、26分17秒53の世界新記録を樹立した。

前半を13分09秒19で通過、後半13分7分を圧倒的な迫力で力走した。ベケレの背後にピッタリ付いて走った、昨年この大会でジュニア世界新記録を樹立したボニファイス・キプロップ(19歳、ウガンダ)が自己記録を大幅に更新する26分39秒77で2位。3位にこれまた自己記録27分39秒34を大幅に短縮、26分41秒75の驚異的なジュニア世界新記録を更新したサミュエル・ワンジル(トヨタ九州)らの6選手が後続して26分台を記録した。

ケネニサ、タリク・ベケレ兄弟は、ヘルシンキ世界選手権大会直後も慌しかった。チームメートと共に帰国。エチオピアは世界選手権で金3、銀4、銅2個を獲得、アメリカ、ロシアに続く第3位。国を挙げての歓迎レセプションに出席後、ベケレは急死したフィアンセ、アレムの墓前に優勝報告して再び渡欧。チューリッヒGLの3000m出場したが最悪の天候でケネニサは7分32秒59で優勝、タリクは9位に終わった。

チューリッヒGLの後、兄弟はサンモリッツで高地練習。ここで今季最高の調子にシェイプアップしてブリュッセルGLに乗り込んだ。

ケネニサはこう言う。「今春は不幸な事故に遭遇。練習、レースに集中できる状況ではなかった。(注:1月4日、突然、フィアンセのアレム・テチャレが練習中死亡。) 調子は80%程度の力だったが世界選手権で優勝、やる気が起きてきた。サンモリッツで調子も急激に上がってきた。あそこでの1週間で世界新記録への挑戦意欲が固まった。10000mはぼくの好きな種目。この種目はこれからもエチオピア選手のものにしなければならない。気象条件完璧。観衆のバックアップ、ブリュッセルは最高の雰囲気を持つスタジアムだ。3人のペースメーカーがしっかりペースを守り、最後に弟のタリクが6000mまで引っ張ってくれた。後半、独走できつかったが、ケニア(注:ワンジル)選手も予想以上に追ってきた。記録はまだ伸びると思うが、ペースメーカー探しが難しい。上海で3000mを走り、今シーズンを良い形で終えることができる」

ケネニサ・ベケレも若いが、追走した2、3位の2人はまだ10代選手だ。特に、ワンジルは、今春、仙台育英高校を卒業してトヨタ九州の新入社員選手。森下監督の指導下にあり自己記録を走るたびに更新してきている逸材だ。仙台ハーフ59秒43の史上2位、10000mのジュニア世界新記録を樹立、驚異的な急成長で世界のトップ選手の力をつけてきた。しかし、ワンジルがトヨタ入社以来、わずか4ヶ月の短期間で5000mを2回、10000mを5回、ハーフを1回の多出場を数える。これじゃあ競走馬に等しい!!会社の宣伝にはなるが、近眼的なものの見方より、ワンジルの将来を見据えた森下監督の選手起用を期待したい。それがサラリーマンランナーの宿命であっても、これから駅伝シーズンに入ると、さらにエースとして出場回数も増えるだろう。ワンジルのバランスあるレース出場は、今後いっそう至難の業になりそうだ。

(月刊陸上競技誌、2005年10月号掲載)

(望月次朗)

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