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大南博美、暑さを克服、ロッテルダム独走初優勝

双子のランナーの姉、大南博美(トヨタ車体、31歳)が、気温25度近い暑さの中で力走。満面の笑顔で高々と大きく手を挙げてテープを切った。ゴールで待ち構えていた02年の同レースで優勝した妹の敬美に祝福され涙の初優勝。大南は2位に約4分以上の大差をつけた2時間26分37秒。珍しい同レース姉妹優勝が実現した。これでロッテルダムでの日本人女子の優勝は、94年朝比奈三代子、02年大南敬美の3人目。スタート時に気温が既に20度を超え、トップ選手がゴールした約1時間後には健康的に危険として一般ランナーのレースが打ち切られた。

地中海沿岸、スペインは気温が低く、フランス中部以北、スカンジナビアまでが、この4月の時期60年ぶりに25〜30度の暑さが続く。レースは暑くなり始めた11時スタート。この時点ですでに25度を示していたが、体感温度は軽く30度を越していただろう。いつもなら風に悩まされるが、この日に限ってほぼ無風状態だった。コースは街路樹も少なく、特に、前半のコースは日を遮るものは何もないフラットなコースだ。厳しい条件下で「記録より優勝を狙った。」という。5キロすぎからゴールまで独走が続いた。

博美は「敬美が『よかったね。おめでとう』と言った瞬間、なぜかドッと泣けてきました。妹に先をいつも越されていたので、これでやっと追いついたような気がします。03年ロッテルダム、04年ベルリンなど、いつも2位ばかりで、勝てなかった。やっと大きなレースで優勝できました。」と、大喜びだった。

博美は続けてこう説明した。「ここで1回目に走った時、38km地点で抜かれて2位になって大変に悔しい思い出があるので、もう一度走ったら優勝しかないと思っていました。調子は良かったので天候さえ良かったら、自己記録を更新しての優勝を狙っていましたが、この暑さですから記録より勝ちたかったです。最初の5kmがスローペースだったので、オートバイからペーサーにペースを上げるように指示が出ました。それまでは17分22秒ぐらいだったと思います。ペースが少し上がったと思ったら、誰もこの暑さですから怖くなって付いてこなかった。わたしには男性の人たちがいつも一緒に走ってくれました。調子が良かったせいか、暑さはそれほど気なりませんでした。勝って本当に良かった!昨秋のシカゴ・マラソンは、優勝したベルハネ・アデレ(エチオピア)らのトップグループに、ハーフを70分10秒ぐらいで気持ちよく付いて走っていたのですが、左足に大きなマメができて7位に終わりました。監督からは、敬美も同じ走りですが、足の着地、上体の横揺れの大きいフォームの修正を言われています。そのため瀬古さんの走りのビデオを見て、やや前傾した腰の入ったランニングフォーム、いいイメージを植え付けています。今回も同じ失敗を繰り返さないために、豆対策にテーピングなどで万全を期して臨んだレースだった。今回はその問題が全くありません。まだまだ、やることはたくさんありますが、この気象条件でのレースは、非常にいい自信になったと思います。(5年前に)敬美が勝っているので、わたしも勝ちたかった。ロッテルダムは2人にとって運のいい所です。これで世界選手権を諦めて五輪選考レースに向けて自信、集中ができます。夢は敬美と一緒に北京五輪出場です。」

大南敬美選手の談話。「ホント!勝って良かったです!電車を乗り継いで、10,15,30,40km地点で応援していましたが、2位との差を伝えました。」

高橋昌彦監督は「この暑さでこの記録なら悪くはない。」と評価した。続けて「2人を指導始めたのが02年からです。姉より妹のほうが左足が内側に入る。ここ3年間で姉のトラックの力は付いてきました。姉は着地がいいので、トラックで記録がいい。しかし、2人とも上体が左右にぶれるので足に豆ができる。バランスの修正は少しずつ良くなってきた。博美はトラックでは敬美より記録が上でいい走りができるんですが、フルマラソンではがんばりすぎて失敗が多かった。これまでマラソンでは運がなかった。昨年のマイアミで勝っているんですが、マイナーレースだったので、一度は大きなレースで勝って勝ち癖を付けさせたかった。3月の昆民も暑く、25〜6度はあります。ここでも距離は十分にこなしてきている。この暑さの中のレースで、うまくまとめられた。博美は世界選手権を捨てていたので、名古屋マラソンに向けての練習をする敬美とは一緒に練習、レースをすることは避けていますが、ここで勝って北京選考会で勝負を賭ける計画です。ボストン出場も考えたんですが・・・、最終的にロッテルダムに決めて良かったですね。」と、采配が的中した。大南は2005年世界選手権女子1万メートル代表。アジア大会は02年釜山大会でマラソン3位、06年ドーハ大会1万メートル3位だったが、この優勝が転機になるか。今秋のレースが楽しみになった。

一方、男子はこの暑さの中で35歳のベテラン、ジョシュア・チェランガ(ケニア)が2時間8分21秒で優勝。松宮隆行(コニカミノルタ)が、昨年の琵琶湖マラソン2位で2時間10分20秒を破る、2時間10分4秒で2位に入る大健闘を見せた。ハーフは6人のケニア選手の集団の後方に隠れるようにして姿が見えなかったが、後半が楽しみな好ポジションにつけていた。ハーフを過ぎてから、6人から次第に暑さのための落伍者が出た。

松宮は「調子はよかったので7〜8分台の記録を狙ってきたのですが、この暑さですから記録より上位に入ることを狙ったので、一応の目的は達成できました。30kmを過ぎてから身体が言うこときかなかった。35kmでスパートされた時は、足が続かなかった。あそこで離されたのは実力の差です。この暑さの中で自己新ですからいい経験になりました。弟と一緒に北京五輪出場を目指したいと思います。」と、満足した表情だった。松宮は頭を左側に傾け、微笑んでゴールした。日本男子選手が海外マラソンで上位入賞した快挙を目撃したのは何年ぶりだろうか。あまりにも昔のことで忘れてしまった。佐藤敏信監督は「松宮は30km、1時間28秒00の記録保持者です。トラックの記録がそのままマラソンに結びつかない。のんびりした性格なので、これで目が覚めて欲しい。」と語った。

 
(07年月刊陸上競技誌6月号掲載)
(望月次朗)

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