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第30回欧州室内選手権大会

第30回欧州室内選手権大会が、3月6−8日にトリノ冬季スピードスケート五輪会場で開催された。「オヴァール・リンゴット」と呼ばれる多目的施設内の特設室内競技場。「トリノ2009」は、英語のサブタイトル「Athetic Emotions」(陸上の歓喜)。熱気溢れる観客で連日満員だった。冬季五輪実績の背景と自信、プログラムはスマートに進行された。若手選手らの起用が多く、欧州勢の強みを発揮するフィールド種目でフレッシュな顔ぶれが随所に見られた。中でも、男子走り幅跳びセバスチャン・バイエル(ドイツ、22歳)は、自己記録を54cm伸ばすセンセーショナルな歴代2位の8.71mを跳んだ。また、地元イタリア勢が大活躍。男子三段跳びで優勝、800mで2位、最終レースの男子4x400mリレーで劇的な大逆転優勝して有終の美を飾った。大会はイライトを拾ってみた。

男子60m、ドゥワイン・チャンバース、歴代3位の欧州新記録で優勝

最終日の男子60m決勝。チェンバース(英国、30歳)、はスタートから他の選手を圧倒する力の差を見せ付けて圧勝。吼えてゴールに飛び込んだ。チャンバースは準決勝でゴール前でちからを抜いた走りながらも、今大会初の欧州新記録6秒42(これまでの記録はドナルド・ポニヨンの6秒45)、歴代3位の好記録で1位通過。チャンバースは、「勝つことしか念頭になかった。勝って、世の中に実力を見せる以外にまともに陸上競技界に復活手段はない」と、かれの陸上界復活を皮肉った。と言うのも、チャンバーズは03年6月禁止薬物使用で2年間出場停止処分を受けた。このため多額の賞金返却義務のため、巨額な負債を抱えていると言われる。アメリカンフットボール、リーグラグビーなどの転向を試みたが、やはり経験不足がネックで不成功。06年6月に陸上競技にカムバック。英国スプリント陣で最も速い選手だが、英国五輪協会は薬物使用経験選手は、生涯五輪出場権を認めていない規定がある。このため北京五輪は不出場。また、欧州陸上GP主催者は、かれのレース出場を完全ボイコット。陸上競技に復活したが、国内で地方レースと選手権出場以外に出場はできないため、経済的な苦境に立たされている。今月すでに自伝本を出版して現状を訴えているが、規約改定を見直されるとは考えにくい。かれの屋外レース出場チャンスは少ない。孤独な戦いが続く。

男子走り幅跳び、セバスチャン・バイェルンの驚異のジャンプ

無名な22歳の軍属の大柄なドイツ選手が、1回目に8.22mを跳んでほぼ優勝を決めたものの、一体だれがその後に8.71mの大ジャンプを想像しただろうか。セバスチャン・バイェルンは、もともと10種目選手だったが、棒高跳びで高いところを跳ぶのが怖くて走り幅跳びに転向した変り種。07年欧州ジュニア大会2位。今季室内で8.17mの自己記録を伸ばし、予選も8.12mで1位通過。決勝初回で8.29を跳ぶ絶好調。大ブレークの背景は、レーバクーゼンから彼女のいるブレーメン市に移転。新環境の生活の充実にある。

バイエルンはこう説明した。

「初回のジャンプ後、かなり調子が良いと思った。これならうまくすると8.30〜40mぐらいは跳べるような気がしたので、同僚のニルス・ヴィンター(2位、8・22m)に欧州室内選手権の大会記録はいくつかと訊いたら8.56mと言ったので、ちょっと無理な記録だなと思った」

2回目の跳躍から連続3回パス。5回目をファオル。最終回で一挙に、自己記録を54cmを伸ばす8・71mの大ジャンプを決めてかれ自身が最も驚いた。この記録はカール・ルイスが84年に記録した8.79mに継ぐ歴代2位の記録だ。あのボブ・ビーモン(USA)がメキシコ五輪の大ジャンプでさえ、40cmの自己記録更新したがメキシコは高地だ。

バイエルンは、「初回で8.29mを跳んだので気が楽になった。しかし、まさか8.71mがでるなんて!なんて言葉に表してよいかわからない。信じられない記録だ。最後のジャンプ前、女子走り高跳びの表彰でドイツ国歌が流れ、やる気を起こさせてくれた」と、地元ベルリン世界選手権の期待のドイツ新星が誕生した。

男子三段跳び、地元期待の星、ファブリシオ・ドナト優勝

滞在先のホテルのフロントで、現男子三段跳び世界記録保持者のジョナサン・エドワーズとフロントで再会した。かれは現BBCTVの解説、インタビューアーとして活躍している。昨年ジュニア世界選手権男子三段跳び優勝者、わずか1年で急成長したテディ・タムゴー(フランス、19歳)の跳躍について尋ねた。タムゴ−は、パリ室内で今季世界最高記録17.58mを記録、五輪優勝者のネルソン・エオボラ(ポルトガル)、2位のフィリップ・イドウ(英国)らの強敵が欠場したため優勝候補筆頭に上げられていた。エドワーズは、「かれの跳躍をまだ一度も見たことがないが、19歳で今季世界最高記録は凄い逸材だ」と、興味を示した。次の言葉を聴いて驚いた。エドワーズが大会開催前に会場に入ると、練習中のタムゴーがツカツカとエドワーズに近寄って、「2年後にあんたの世界記録を破るぜ!」と凄んだとか。男子三段跳び予選は、15名の出場者中タムゴーは、最年少ジャンパー、今季世界最高記録保持者だった。最初の跳躍を脚が合わずに15.94m、続く2、3回の跳躍とも全く脚が合わず自滅。あっけなくまさかの予選落ち。頭を抱えて呆然とした。「大失望!強烈なパンチを食らった!ここのトラックは弾力がありすぎて助走が難しい。多分、国際経験不足でプレッシャー、緊張してどうにもならなかった。しかし、ベルリンのオレを期待して見てくれ!」と、最後には息巻いていた。

決勝は大会2日目の午後。地元期待を一身に受けたファブリシオ・ドナト(32歳)の出場。初回から連続4回ファオル。ほぼ絶望的な苦境に立ったが、5回目に大歓声をバックに本領発揮。まさかの今季世界最高、イタリア、大会新記録の17.59mの大ジャンプを決めて逆転優勝。「ラッキーな一発だった。最後まで望みを捨てなかった。この優勝はイタリアのもの!」と、地元待望の初優勝で割れんばかりの歓声で沸いた。重圧から開放されたドナトは、娘グレタを肩に場内を歓喜の一周して観客に応えた。

男子砲丸投げ、五輪王者マイェフスキ貫録勝ち

大会出場選手ただひとりの五輪優勝者。予選を一発で通過。「五輪優勝後、新たなモチベーションを探すことは難しい」と言いながらも、決勝でもただ一人20mの大台を連発。5回目に21.05mを決めて貫禄の楽勝。「現実に、欧州の中でライバルを探すのは難しい。楽勝しても楽しいものではないが、勝つことが大切だ」と笑い飛ばした。

女子800m、マリヤ・サヴィノワ

決勝レースは、最初からハイペースで飛び出したマリヤン・オコロ(イギリス、24歳)が、前半を56秒1で通過。後方でマリア・サヴィノワ(ロシア、24歳)が懸命に離れまいと追う。ハイペースがたたりスピードが鈍ったオコロを抜いて、最終ラップで先頭に立ったサヴィノワが一挙に大きくリードして優勝。今季世界最高1分58秒10の好記録だった。サヴィノワは、「今季の目的はベルリン世界選手権で優勝することが最大の目標。優勝は悪くはないが、ここで優勝する予定はなかった」ロシア国旗を振りながらウイニングラン。

女子走り高跳び、フリードリッヒ、注目の対決を制覇、選手権に弱いブラシッチ自滅

今大会の目玉種目の一つが現世界最強の女子走り高跳び。アリアン・フリードリッヒ(ドイツ、24歳)対ブランカ・ブラシッチ(クロアチア、25歳)の一騎打ちだ。この両者対決は、カールスルー室内大会で対決。フリードリッヒが競り勝っている。ブラシッチの巻き返しを期待したが、絶不調で196cmも越すこともできずに早々に敗退。気抜けしたフリードリッヒも2.01mを跳んであっさり優勝決定。これで今季8戦全勝。

フリードリッヒは、「こんな不調のブラシッチを見たことがない。一体なにが起こったのか、こんな楽勝して不思議な気持ちだ。でも、次はベルリンでブランカと真剣勝負になるだろう」と、ライバル復活を期待した。

 
(09年月刊陸上競技4月号掲載)
(望月次朗)

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