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ベルリンマラソン 雨中のレースを驚異的なハイペースで制したパトリック・マカウ 女子は新鋭アベル・ケベデ優勝 故障あがりの森本、完全復活を果たして3位

今秋のトップを飾る世界的に注目される第37回ベルリンマラソンは、前日から中断することなく雨が降り続く悪天候だった。無風状態で気温は14度。コース上に大きな水溜りができ、トップランナーは避けることなく突っ込んで走った。今回のベルリンは、これまで2度の世界新記録で4連勝したハイレに代わり、今春のロッテルダム優勝者のパトリック・マカウ(ケニア、25歳)、2位のジョフレイ・ムタイ(ケニア、29歳)らの4、5分台選手が目玉だった。期待に応えマカウ、ムタイ、ウォルク3選手の激戦はゴール直前まで続き、悪条件のためか優勝タイムは2時間5分8秒だった。物静かなムタイだが、「悪天候のため1分30秒の損失。雨天でなければ世界新記録が出た」と、平然と言ってのけた。女子は今回で3度目のレースのアベル・ケベデ(エチオピア、21歳)が、2時間23分58秒で圧勝。森本は09年ロンドンマラソン後の股関節故障から1年半ぶりのレースで2時間26分10秒の3位で完全復活を遂げた。尚、今春東京マラソンで優勝した藤原正和(ホンダ)は、2時間12分00秒で9位に終わった。




雨さえなければ・・・、世界新記録が出た

マカウ、ムタイ両者の激戦は、今春のロッテルダムマラソンの再演だった。あのレースもお互いに一歩も譲らず最後まで熾烈な戦いの末、マカウが2時間4分48秒でムタイを抑えて優勝。ムタイは7秒遅れの55秒で2位に甘んじた。あれから6ヵ月後もムタイが積極的にリード、マカウが背後に付くほぼ同じような戦況とパターン。ゴール手前でマカウが先頭を奪い優勝。ムタイは僅差の2秒遅れでまたしても2位に甘んじた。マカウのマラソン歴は4回目。09年ロッテルダムでの2時間6分14秒の4位がデビュー戦だった。09年NYは途中棄権。3回目のロッテルダムでムタイと争い、一挙に歴代5位まで記録を更新。急激に力を付けてきた怖いもの知らずの新鋭だ。一方、ムタイのマラソン歴は7回目。今春ロッテルダムで歴代6位まで記録を短縮してブレークした陽気な選手。3位のバズ・ウォルク(エチオピア、20歳)は、09年パリマラソンを弱冠18歳で2時間6分15秒のジュニアマラソン世界新記録で2位。今回でマラソン3回目の逸材だ。

男子トップグループのペース設定は、ハーフを61分ペース。と言っても、近年世界記録に挑戦するトップランナーにとって、それほど驚異的なスピードではない。最初の5kmを10名のランナーが14分48秒で通過。スタート時より雨が激しくなったためか、ハーフを予定タイムから遅れる62分36秒で7選手が通過。このトップグループ構成は、マカウ、ムタイ、ウォルク、今春のプラハの難しいコースで2時間5分39秒のコース新記録を出して優勝したでエリュード・キプタヌイ(ケニア、21歳)、ギルバート・イェゴン(ケニア、22歳)、イェマネ・ツエガイ(エチオピア、25歳)、エシェツ・ウェンディム(エチオピア、28歳)らの5,6分台の記録を持つランナーの集団だ。最後のペーサーが31km地点までしっかり仕事を完結。マカウ、ムタイ、ウォルクの3選手の優勝争いに絞られた。ブランデンブルグ門手前で、ウォルクが脱落、マカウ、ムタイの一騎打ちはゴールまで続き、マカウがムタイに2秒差でケニアのレイル・オディンガ首相が持つテープを切った。マカウ、ムタイも首相に抱きついて大喜び。ムタイは、「悪条件下のレースでこの記録は満足だ。今日は勝つことが大事だ。世界記録を破るチャンスだったが、雨、寒さの中で約1分30秒の損失。39km地点で一時後退したのは、他の選手の反応をテストした作戦さ」と語った。藤原は最初の5kmまでトップ集団に付いて行ったが、10km通過でトップ集団に20秒遅れ。藤原はハーフ通過が63分56秒。後半さらに遅れて、「きつかった!」と。優勝タイムから約7分遅れの全く異質のレースとなってしまった。

一方、女子レースは、アベル・ケべデ(27歳、自己ベスト2時間23分09秒)、ベズネシュ・べケレ(24歳、自己ベスト2時間24分26秒)、ゲネット・ゲタネ(24歳、自己ベスト2時間26分37秒)のエチオピア勢3選手のトップ集団がお互いにけん制しすぎて、最初の5kmを18分03秒で通過。これが最後まで響いた。ハーフを1時間12分20秒で通過。第2グループで森本、地元期待のサブリナ・モッケンホウプト(30歳)らが1時間13分21秒通過。30km手前ベケレ、ゲタネが脱落。ケベデがゴールまで独走して1分の大差で圧勝。ケベデは、「サブ20分を狙ったが、雨と寒さのため30km付近でけいれんが起きたがなんとかゴール。優勝して大変に嬉しい」と大喜び。



森本談

「内容の良い練習ができて調子は良かった。できれば23分台か自己記録更新(注:06年ウィーンで出した2時間24分33秒)で走れれば良いと思っていたのですが、雨と最初の5kmを18分の遅いペースで入ったのが悔やまれます。先頭の3選手は5km手前で急にスピードアップ。そこで離れました。監督からハーフを71分で行けば大丈夫だ、と指示があったんですが73分21秒で通過。前の選手が全く見えず独走。35km付近でエチオピア選手が落ちてきて、次にドイツ選手を拾い3位に上がったんです。なんとか3位確保するために頑張りました。09年ロンドンマラソン後の股関節故障から1年半ぶりで痛みもなく完走。これで故障の不安が解消されたのは大変に良かったと思います。レースのブランクがあったので、一応、選考会は大阪に目標を置いていますが…、世界選手権選考レースのため、1回走ってレース感を取り戻すためのテストでした。6月にボルダーで行われた合宿ごろから少しずつ回復に向かい、アルバカーキーでの合宿でほぼ痛みはなくなり練習も追い込むことができました。これまで北京五輪、ベルリン世界選手権はいずれも補欠続きだったので、次回世界選手権、ロンドン五輪に向けてしっかり目標達成にベストを尽くします」


武富監督談

「レース勘を取り戻しただけでも良かったと思います。わりと調子が良かったので、25分切って自己記録更新できれば最高だったのですが、気象条件が悪く最初の5kmが18分と異常に遅かった。16分台で入ってくるだろうと予想していたのですが、まさかの18分台は大きな誤算です(苦笑)まあ、結果としては大体合格点でしょう。今回もレースからちょっと遠ざかっていたので多少の不安がありましたが、完全復活を果たせてホッとしています。彼女の持ち味は、スピードはありませんが「粘り」、安定した走りを期待できます。このまま順調にいってくれれば世界選手権、五輪を狙えるのではと期待したいものです。野口も少しずつ良くなってきていると聞いています。大勢良い選手が出てきてマラソン界を盛り上げてほしいものです。」

 
(2010年月刊陸上競技11月号掲載)
(望月次朗)

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