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ウィルソン・キプサング、4秒差でマラソン世界新記録を逃す

世界マラソン界に記録の「なだれ」現象が起きている。

10月30日、フランクフルト・マラソンでウィルソン・キプサング・ロティッチ(ケニア、29歳)が2時間03分42秒の歴代2位の好記録で2連覇。5週間前ベルリンで樹立された世界新記録2時間03分38秒にわずか4秒に切迫した。しかも、雨で路面が滑り、彼自信がタイム確認を誤る不手際で世界新記録を逃した。

キプサングはレースをこう説明した。

「準備は周到に行われ、調子は良かった。路面が雨で多少滑ったのでタイム損失をしただろうが、スタート直後から、世界新記録かそれに近い記録が出るような感触だった。ハーフを7,8人の集団が、ほぼ予定通りの61分40で通過。30kmを過ぎてもオマリ・レヴィー・マテボ(ケニア、22歳。注:2度目のマラソンを2時間05分16秒で2位)、ピーター・チェルイヨット・キルイ(ケニア、22歳。注:パトリック・マカウのペーサー。テグ世界選手権10000m6位。30kmでペーサーを務めたがそのまま完走して2時間06分31秒で6位)らが一緒だった。35kmで時計を見ると、ペースが2時間4分台に落ちたのに気付きペースアップ。世界新記録を目指して頑張ったが、残念ながら4秒差届かなかった。でも、自己記録は更新したので満足だ。これで五輪代表に選考されるのも間違いないだろう。(世界新記録ボーナス12万ユーロを逃がしたことを聞かれて)お金より記録の方が大事。次の機会にがんばる。まだ記録は伸びると思う」

キプサングは2010年パリマラソンを2時間07分10秒の3位でデビュー。昨年フランクフルトで2時間04分57秒、今年の琵琶湖マラソンでコース新記録の2時間6分13秒で優勝。今回4度目のレースで自己記録を1分以上更新した急成長のランナーだ。レース前の記者会見で「調子はいい。マカウが世界新記録を樹立した。おれにもできる。世界新記録かそれに近い記録で優勝する」と予告優勝宣言。マラソンで優勝と優勝タイム予告をする選手も珍しいが、舌の根も乾かないうちにわずか4秒差で世界新記録を逃した実力も凄い。

来春のロンドン、ロッテルダム、パリでよほどの記録が出ない限り、このキプサングと世界選手権優勝者のアベル・キルイ、世界記録保持者のパトリック・マカウの3選手がケニア史上最強のマラソン五輪代表に選考されるのは間違いあるまい。

世界マラソン界はこれを契機に2分台に突入か、近い将来2時間の壁に向かっての大きな挑戦が現実的なものになってきた。

 
(2011年月刊陸上競技12月号掲載)
(望月次朗)

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