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アムステルダムマラソン
「皇帝」ハイレ・ゲブラセラシエマラソン世界記録更新ならず

レース前の記者会見でハイレ・ゲブレセラシエ(エチオピア、32歳) は「天候さえよければ世界記録を更新する!」と公言した。ハイレは世界長距離の頂点に10年以上君臨していたとは言え、アテネ五輪後本格的なマラソンランナーに転向した。アキレス腱手術後の不安を抱え、マラソン参加は2度目。9月4日、オランダのティルブルグ市 の10マイルロードレースで44分24秒の世界記録を樹立。久々にかれの名前が世界に飛んだこともあり、ハイレのレース参加は世界の熱い注目を浴びた。スタートから意欲的に飛ばし、20kmをポール・タガートの持つ世界記録を56秒も早いペースで通過。しかし、後半、向かい風、高温に悩まされての独走。35km過ぎてさすがのハイレもペースダウン。2位を2分30秒以上も離して、自己、大会記録を更新する2時間6分20秒で優勝した。レース前後の話をまとめた。

―レースの印象は?
ハイレ―いまさら言っても意味がないことだが、スタートが11時なのでレース後半は暑かった。われわれアフリカ選手は暑さに強いと思われがちだが、とんでもないこと!エチオピア選手は早朝の涼しい時間に練習。11時以後の時間は、昼寝の時間!!(笑い)また、25〜30km地点では強烈な向かい風、後半35km過ぎて街中に帰ってくるが、あらゆる方向から風が吹いてきたので、これにはかなり悩まされ体力を消耗したね。

―それがなければ世界記録が更新できたか?
ハイレ―できたと思う。風、高温などの悪条件の中を、30kmを過ぎてから独走したので、少なくても2分の損失だと思いたい。

―結果は不満足?
ハイレ―ぼくも主催者側も大失望さ!ぼくも取材する人たちも、世界記録更新だけ!(笑う)ぼくが自己新記録(注:これまでの記録は02年ロンドンで出した2時間6分35秒)を出しても、または勝敗を云々しても意味がないと思う。ペーサーが予想以上に早く潰れたので、二人だけになってしまったし、ダニエルと一緒に走るとかれが大きいので走りにくかった。

―疲れは?
ハイレ―全然疲れがないし、直ぐにでもマラソンを走れる!( 注:この言葉を聞いて、ローマ五輪マラソンで優勝したビキラ・アベベは、レース直後、“全く疲れていない。もう一度走れる!”と言って周囲を驚かせたシーンを連想させた。) 手術した個所も全く心配がない。

―次回のレースは?
ハイレ―確かなのは、3年契約のある来春のロンドンマラソン出場。昨年出場する予定だったが、脚の状態が万全ではなかったので、出場しても勝てなければ意味がないので出場を取り止めた。でも、これから2ヵ月後に出場しても走れるね。

―ロンドンで世界記録を狙うのか?
ハイレ―もちろん、ぼくが出場するレースの総てが、主催者、ファン、皆さんも世界記録更新を期待するでしょうから・・・それに応えるのがぼくの役目です。ただし、毎回とは行かないね(笑う)

―今回は2度目のマラソンレースだが、1回目と比較しての練習過程での違いは?
ハイレ―あの時はマラソンを軽く見ていたし、練習もトラックの延長程度で、十分でなかった。39km付近でアキレスを痛めた。あの時と今回では、練習量、質も本格的なマラソン練習を消化してきた。リチャード・ネルーカ(イギリス人。アディスアベバ在、元マラソンワールドカップ優勝者)が、自転車で伴走してくれ、2500mの高地で30、40km走を数本こなしてきた。

―2度目のマラソンだが、マラソンはトラックと比較して難しいと思うか?
ハイレ―いや、マラソンはトラックと比較すると非常に楽だと思う。練習もきついし、プレッシャーでレース前夜は眠れないこともあった。なぜかと言うと、トラックは距離が短く、タクティカルな展開が必要で一瞬にして勝敗が決まるが、マラソンはタイトルが掛かったレースは、少しはタクティカルナレースになるだろが、通常のレースでは自分のペースで真っ直ぐ走れば結果は出るだろうと思う。

―ロンドンで世界記録更新の可能性は?
ハイレ―ここで走ったような調整状態なら、かなり高い可能性でいけるね。

―次回のレースまでの課題は?
ハイレ―、今回25〜30kmで強風のため体力を消耗して、後半35〜40kmで15分20秒も掛かってしまった。やはりイーブンペース維持が大切。35km以後の走りを確立したい。

―ポテンシャルは?
ハイレ―自分でもわからないが、いろんな条件が満たされれば今の世界記録は必ず近いうちに破るのがぼくの目標するところだ。

―世界記録の先に北京五輪優勝がみえてくる。
ハイレ―そうありたいものです。

レースディレクターのヨス・ヘルマンス談

「ハイレはまだマラソンランナーとして発展途上選手。習うことは沢山ある。絶好調だったので、巧く走れば4分そこそこの記録を期待していた。3分台突入の可能性もあった。前半を62分30秒設定、62分でもかれなら決して無謀なペースではない。1kmを2分50秒の予定だった。記録更新できなかった原因は3つある。レーススタートが11時のため、レース後半に予想以上に気温が上昇、強い向かい風を30kmから独走でペースダウンが原因。タガートがベルリンで世界記録を樹立した時は、ゴールまで偶然とペーサーのコルリと熾烈な戦いが続けられた利点もあった。もちろん、ハイレの距離に対する経験、認識の甘さもある。前半のペースダウンを指示したにもかかわらず、ダニエル・イェゴ(ケニア、34歳)と先頭争いしてペースアップしたことも、後半、失速した一因にもなっていると思う。今回のレースで大きな収穫は、これでハイレが本格的なマラソン転向が故障もなく成功できたこと。天候、ペーサーに恵まれれば、近い将来にマラソン世界記録樹立の可能性は大きい」

女子マラソン優勝者、クトレ・ドゥレチャ(エチオピア、27歳)

元1500mシドニー五輪選手。かつて、「距離が長いのでマラソン転向はありえない」と言っていたが、昨年のハンブルクマラソンデビュー戦で2時間32分29秒。今回が2度目のマラソンで自己記録を2分以上更新する2時間30分6秒で優勝。「レースは思ったより気持ちよく走れたが、後半向かい風でペースダウン。自己記録を更新して優勝したのでまあまあの結果でしょう。欲を言えば28分ぐらいで走りたかった」

(05年月刊陸上競技社12月号掲載)

(望月次朗)

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