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第11回室内世界選手権大会ハイライト

「2年に一度開催される、今年で11回目の室内世界選手権大会が、モスクワで3月10〜12日の日程で開催された。

特設会場は、1980年モスクワ五輪で体操競技などのために建設された、巨大な『オリンピスキー・スポーツ・センター』の半分を使用したもの。

屋外はマイナス10度だが、暑い位の高い室内温度だった。133カ国から635選手が参加。特に、地元ロシア女子選手の活躍が目立った。世界新記録こそ見られなかったが、全般的にレベルの高い大会だった。

今大会のハイライトを10種目選択してまとめた。なお、日本から3選手、60mhの内藤真人、棒高跳の澤野大地、女子走り幅跳の花岡麻帆が参加したが、いずれも決勝進出はならなかった。


男子60m優勝者、レオナルド・スコット(USA,26歳)

昨年ヘルシンキ世界選手権100mで6位のスコットは、準決勝と同記録の6秒50今季世界最高記録で優勝。勝ったとわかった瞬間「This is great!! 俺の走りっぷりを見ただろう。アメリカンは世界一さ!」と言って、自分を指して大見得を切った。スコットは、五輪、ヘルシンキ短距離2冠男のジュスティン・ガタリンと同じテネシー大学陸上部出身。大学卒業後、今季のスーパーボールの覇者NFL名門、スティーラーズのトライアウトに挑戦したがプロ契約ならず陸上界に復帰した変り種。「優勝は最高の気分だ。この勝利から、大きな将来が見えてきた。3年前、スティーラーズから解雇され、将来を悲観して、どうしたらよいか途方にくれたことを思い出す。陸上を再び始めてよかった!スティーラーズはスーパーボールを制覇したが、これが俺のスーパーボールだ。世界選手権、五輪優勝に向けて、楽しみができたよ」と、スコットは大感激だった。


男子800m優勝、ウイルフレッド・ブンゲイ(ケニア、25歳)

現ロシア陸上界最大のスターは、ロシア選手初のアテネ五輪男子800m優勝者のユリ−・ボルザコフスキー(26歳)だ。大会最後の個人種目に男子800m決勝レースを持ってきたことからも、地元の期待をうかがえる。レースはブンゲイがスタートから積極的に先行。400m通過が55秒65とややスローペース。優勝候補筆頭のボルザコフスキーは、例によって、定位置の後方につく作戦だ。ブンゲイはペースアップして逃げ切り作戦。最後のホ−ムストレッチに入った瞬間、ブンゲイはさらにスピードアップ。ボルザコフスキー得意の追い込みも伸びず。ブンゲイの内側から猛然と追い込んできたブラエニ・ムラウジ(南ア、25歳)が。ゴール手前でボルザコフスキーを抜いて2位。負けたボルザコフスキーが、ブンゲイと抱き合って祝福を称えた。さらに、ボルザコフスキーは、表彰式で息子ヤロスラフ(4歳)を抱えて上がり、満場の喝采を浴びた。ブンゲイはレース後、「今大会はユリーの地元開催。十分の準備と思い切って走らないと勝つのは難しいと思っていた。勝ってよかった。」と、至極満足そうだった。


男子3000m優勝者、ケネニサ・ベケレ(エチオピア、24歳)

世界長距離界の3強、ケネニサ・ベケレ(エチオピア、24歳)、エリュード・キプチョゲ(ケニア、22歳)、サイフ・サヒード・シャヒーン(カタール、24歳)らが、珍しく同レースで激戦を展開した。ベケレはクロカン世界選手権2冠5連勝の練習の一環と呼び、弟タリク(18歳)と一緒だ。キプチョゲは今季7分33秒07の世界最高記録をドイツで記録した。3000m障害世界記録保持者のシャヒーンは室内で走るのは初経験だ。 大柄のイアン・クラッグ・アリスター(アイルランド)が、最初の1000mを2分43秒18で通過。その後、キプチョゲが2000mを5分15秒99のペースアップ。シャヒーンの最後のスプリントを警戒してか、ベケレがグングンペースアップ。残り2周目でスパート、2位以下を大きく引き離して初優勝。これで男女史上初の屋内外、クロカンタイトルを獲得した。ベケレは優勝の喜びを『室内レースは余興のようなもの』と笑い飛ばし、世界クロカン2冠5連勝に弾みをつけた。


男子三段跳び優勝者、ウォルター・デイヴィス(USA,27歳)

開幕前、今季17.74mを記録したマリアン・オプレア(ルーマニア、24歳)が優勝候補筆頭に上げられていた。それに対抗して、世界選手権で優勝したデイヴィス、ブラジルの巨漢ジャディール・グレゴリオ(24歳)、ヨアンドリ・ベタンゾス(キューバ、24歳)らが、次々と17mを軽くオーバーの連発。決勝は高いレベルの争いになった。デイヴィスが1回目の跳躍で17・73mの自己最高記録のビックジャンプで優勝を決定的にしたが、後続のグレゴリオが17.45mの南米新記録を2回目、ベタンゾスらも自己最高記録を連発して激戦が展開された。デイビスの記録に驚かされてか、オプレアに精彩がなかった。デイビスは激戦をこう説明する。「予選通過は3回目の跳躍だった。決勝は最初の跳躍で優勝が決まった。試合前、優勝候補の名前は別の選手だったが、この次からは、俺の名前が最初に挙がってくるだろう。」


男子走り高跳び優勝者、ヤラスラフ・リュバコフ(ロシア、25歳)

リュバコフは世界室内連続3大会で、ライバルのステファン・ホルム(スエーデン、29歳)の優勝を横目に眺めてきた。リュバコフの父親が走り高跳び選手、現コーチ、母親が混成競技、祖父がスポーツ万能、祖母が走り高跳び選手など、スポーツ一家に育ち走り高跳び選手になる運命を背負ってきた男だ。リュバコフ(197cm)とホルムの身長差は17cm。ホルム−リュバコフ対戦は35戦18敗5引き分け。しかし、今季の室内大会でホルムの故障などがあったが、リュバコフはストックホルム室内で2.38mをクリアーして絶好調。これは過去5年間で最高の記録で優勝。ホルムコンプレックスが吹き飛んだ様子。地元のバックアップを受け、同僚のテレシン・アンドレイも2.35mをクリアー、上位を独占して大喜びだった。リュバコフは「屋外欧州選手権に優勝、やっと、室内世界選手権に優勝できた!」と大喜びだ。


男子砲丸投げ優勝者、リース・ホファ(USA,29歳)

ホファはアダム・ネルソン(USA)と同じ、アトランタの郊外のアテン市の大学グラウンドで練習する同僚。長い間、ネルソンの陰に隠れていたが、決勝2投目で22.11m、史上8番目の好記録で優勝。一挙にブレークか。「勝つためにきた。今日の結果は、人生最高の日だ。まさか22m台の凄い記録が飛び出るとは、自分でも信じられない。2投目以後の投擲テクニックが良くなかった。室内が暑かったので、軽い脱水状態になって足が釣ってしまった。あれがなかったら、多分、もう少し記録が伸びただろう。今までやってきたことが間違っていなかった。」ホファはこわもての表情だが、黙々と競技に専念するタイプ。2投目後、確かな手応えを得て、珍しくも諸手を上げて大喜び。記録が表示された瞬間、巨体を宙に浮かせた。


女子800m優勝者、マリア・ムトラ(モザンビック、33歳)

最近、ロシア中距離選手は圧倒的に強いが、今回も決勝に残ったのは一人だ。レースは大方の様相を裏切って、モチベーション、力の衰えたと言われるムトラが1周目を58秒28で通過。積極的な展開を見せた。ムトラの逃げ切り作戦が効を制し、一回りも違う年齢差をものともせず、2位を大きく離して圧勝。この種目で4連勝7回目の優勝の金字塔を立てた。レース後、ムトラは「この優勝の意味は大変に大きい。ヘルシンキではメダル獲得を逃した後は、多くの人たちは、わたしのキャリアは終わったとまで言ったが。2シーズン足の故障で満足できる状態ではなかったし、走っても結果が伴ってこなかった。故障がなければ、まだまだ以前のように走る力が残っている。決勝でなんとかなるような予測ができたのは、優勝記録が55秒台なら別問題だが、多分、58秒前後で勝てると思ったからだ。久しぶりの優勝は良いもの。これで屋外シーズン、北京五輪まで十分にやって行ける自信が付きました。」と語った。


女子3000m優勝者、メセレット・ディファー(エチオピア)

レース前の焦点は、二人のロシア選手、リリヤ・ショブノワ(ロシア、29歳)、オレシャ・シレワ(ロシア、)が、大会前のロシア室内陸上選手権でそれぞれ8分27分86秒、8分29秒00の世界新記録を樹立。エチオピアのディファーとの直接対決だ。レースはスタートからロシア選手の二人が、ディファーの最後のスパートを警戒して、タクティカルナレース展開したが、意外にも、中盤で先頭に飛び出したのはリディア・チョジェカ(ポーランド)、マリエム・アロウイ・エジグ(モロッコ)。ペースアップレースの主導権を奪う。5周目を残してディファーが2位につけ、残り1周目で始めてディワーが満を帰して先頭に飛び出し、アッというまに大きな差をつけ、そのまま大差で拳を突きだしてゴール。優勝したディファーは「2連勝ができた!今回はロシア選手が世界新記録を樹立しているので要注意だったが、レースそのものは心配していたより難しくなかった。この種目はエチオピア選手のもの。勝つためのハード練習のおかげです。強敵を相手にして、勝って大変に嬉しい。室内を走るのは大好きです。」とにっこりした。


女子棒高跳び優勝者、イレナ・イシンバイェワ(ロシア、23歳)

イシンバエワは「この優勝を両親の結婚25周年記念に捧げます」と、優勝後のインタビューに語っている。今季から今までのコーチから離れて、ブブカ、ガタウリン、パリ世界選手権で優勝したジウセッペ・ジビリスコ(イタリア、29歳)らの選手を育ててきたヴィタリ・ペトロフ・コーチに変えた。主の原因はブブカの奨めもあってか「さらに記録向上のため」と説明しているが、コーチの違いを「非常に細心の技術的なチュ−ンアップを要求してくる」と説明している。4.65mから跳び始めて、4.75、4.80mを共に1回目の跳躍でクリア。軽く2連勝を決めた後、4.93mの室内世界新記録に挑戦したが、惜しくも記録更新はならなかった。また、すっかり女性らしくなって、見事に4.70mを跳んでカムバックして3位になったスベトラーナ・フェオファノワ(ロシア、25歳)。これらの優勝者のほかに、走り高跳び、イェレナ・スラセレンコ(24歳)、走り幅跳び、タティアナ・コトワ(29歳)、三段跳び、タティアナ・レベデワ(29歳)、60mh デヴァール・オルーク(アイルランド)らの活躍も見事で楽しかった。


(望月次朗)

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