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アテネ五輪のノスタルジー、ワールドカップに燃えた五輪競技場

ワールドカップは4年に一度開催される地域別対抗戦。9月16、17日の両日、アテネの五輪会場で開催された。今回で10回目を向かえるワールドカップはなじみが薄いので、簡単に説明をする。欧州、USA、アジア、オセアニア、アメリカ、欧州カップ国別対抗男女1,2位の国、開催国なども出場するケースもある、を代表して対抗する大会だ。各種目に代表は一人のため、必然的にレベル差が極端に大きい。優勝ならいざ知らず、種目によっては上位でも特別な意味は薄く、世界選手権、五輪レベルへは直接結び付けることは安易になる。また、多くの選手にはワールドカップそのものが、シーズン最後になって心身とも疲労、モチベーションの低い大会になっているのが現実だ。しかし、心配された観客動員も、五輪の熱狂の再燃を期待してか、2日間で6万に弱の観客が予想以上に熱くなって盛り上げた。 。

室伏広治、今季自己最高記録で優勝

あの五輪の熱狂ぶりが幻想であったかのように、ひっそり静まり返ったスタジアムに男子ハンマー投げ選手がトラックを半周して入場。サークルも五輪のまま、対面に火の消えた聖火台が見える。しかし、室伏広治(ミズノ)は2年前の感傷に浸ってはいない。室伏は自分の投擲にすべてを集中。1投目こそ79.70mだったが、2投目からすべて81mを越える安定感だった。3投目に今季自己最高記録の82.01mを投げて優勝。今季7戦に全勝した。「わざわざアテネの田舎まで取材に来られてごくろうさまでした」とジョークをとばしながら取材陣の前に立った。

「アテネは2年ぶり。世界選手権、五輪と違って、観客が少なくて寂しいですね。(注:ハンマーのあとの開会式、観客は3万にぐらい入場した。)先週のファイナルとワールドカップは,  今季カムバックのシーズンで最も大事な2試合と位置づけていたもの。アテネでもいい結果で勝ててよかった。1年間のブランク後にしては、予想以上に投げがまとまってきています。まだ、完璧に満足した投げではなく、惜しい投げがまだ多いですが、後半になって投げの完成度が高まりつつある感触を得てました。来年に向けてなに向けてなにを修正していかなければならないか、それを掴むことができたシーズンでした。」

末続、19秒台の高速レースの洗礼を受けた

末続慎吾(ミズノ)が03年世界選手権200mで3位になったシーズンは、世界で200mをサブ20秒を記録した選手はいなかったが、今季19秒63を筆頭にサブ20秒は6選手によって15回記録したハイレベルなシーズンだ。末続は8コースで外側の優勝したワラス・スペアーモン(USA)を懸命に120〜140mぐらいまで追ったが、スペアーモンと5コースのジュニア世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)らの高速優勝争いに実力差で大きく遅れて後塵を被った。それでも欧州選手権短距離2冠のフランシス・オビクエル(ポルトガル)を抑えて20秒30で3位になった。レース直後、待ち構える取材陣の前に来て、「疲れた!」を連発して通路に大の字になってしばらく横たわって休んだ。「19秒台の選手はやっぱり早い。120〜130mぐらいまでは世界のトップといけるのですが、追えなかった。今後の課題は150mを過ぎてからの「粘り」の走りが必要。これで19秒台が見えたカンジですね。まだ19秒台で走ってはいないが、未知の世界ではない。これから強い連中をどのように崩してゆくかが課題です。」アジア大会、さらに今年の冬季練習から大阪に向けてサブ20秒の手ごたえを掴んだか。

澤野、5.70mを跳んで2位

すべての種目は地域別対抗戦である以上、各種目出場選手枠に限りがあるため、選手の実力差が大きい。また、シーズン最後のタイトル戦だが選手の疲労が激しい。欧州選手権優勝屋のアベルブカ、2位のメニルらが早々に脱落。優勝したスティーブン・フーカー(オーストラリア)、澤野大地(ニシ・スポーツ)、ジュニア世界選手権2連勝のヘルマン・キアラヴィジリオ(アルゼンチン)の3選手のメダル争いになった。澤野は5.50mを軽々クリアー。5.60mをパス。5.70mを一発で跳んで2位を確定。さらにフーカーと優勝争いを演じ、80を2度失敗。5.85にバーを上げて日本新記録に挑戦したが、その前の跳躍と変わってタイミングがあわなく失敗した。澤野は「最後の5.85mは惜しかった。脚が横に流れて失敗。前回はぼくの最初の欧州遠征で記録なしに終わった。今季3回目の欧州遠征で、かなり疲労もあるがこのような状況で連戦する経験から多くのものを習うことができた。今季は昨年と違い、メンタルタフネス、体力などが充実、勝てるチャンスが大きくなった。何度かは世界のトップクラスの選手と優勝争いをしてきた経験、自信は大きいと思う。この冬さらにパワーアップして、大阪、北京五輪へ向けて階段を上っているところです。」と、抱負を力強く語った。

 

福士、3000mで自己の日本記録にあと一歩、5000mで3位

「短い距離はキツイです!」と言いながら、福士加代子(ワコール)は、初日の3000mであと一歩で自己の持つ日本記録8分44秒40に惜しくも0.18届かなかった。「レース中は記録を全く意識していなかったので・・・、損しましたね」と笑い飛ばした。優勝はティルネシュ・ディババ(エティオピア)が大会記録で楽勝したが、2位以下は激戦だった。こうなると福士は2週連続、レベルの高いレース出場が少なからず後半に響いた。大会2日目、今度は5000mに出場。スタートから慎重に自己のペースを守って、終盤から追い上げて3位に順位を上げた。優勝はスタートから独走したメセレット・ディファー(エティオピア)が大会新記録14分39秒11で圧勝。福士は「スタート前、先頭に付いて行くつもりだったが、早いペースだったので自滅すると思い第2グループにつけました。優勝した選手はそのまま行っちゃいましたね。終盤落ちてきた選手を抜き、なんとか3位。」

続けて、「ロード世界選手権出場はマラソン転向へのテストか」と訊かれて、「仙台ハーフで優勝したので自動的に決まっただけ。ハーフまでならいいですが、それ以上の長い距離は好きじゃありません」と一笑に付した。マラソン転向はまだ先送りだろう。

男子4x100mリレー

若手主体で構成したメンバーが大成功。欧州選手権2位の英国勢と2位争いを演じて、期待以上の38秒51の史上6番目の好記録で3位だった。電光掲示板に結果が出た瞬間、「ヤッター!」と、4人は大声を上げて大喜び。新メンバーが当たった。各選手の喜びの声を聞いた。

スタートは塚原直貴(東海大3年)「ちょっと緊張しましたが、アメリカを目標にして力走。気持ちよく走れたと思います。2走が先輩の末続さんなのでうまく走れば行けると思った。」

2走 末続慎吾(ミズノ)「最初ちょっと詰まった感じでバトンを受けたが、流れは2〜3番。向かい風だったがうまくまとめることができた。久しぶりに面白いレースができた。」

3走者の高平慎士(順大4年)は「五輪を思い出した。4番手ぐらいを予想したが、流れでは2、3番手できたので気持ちよく走れた。小島さんに渡せばうまくまとめてくれると思いました。」

4走 小島茂之(アシックス)「バトンタッチをそれほど練習したわけではないが、3位でバトンを受けて、気持ちよくゴールまで走れました。あのぐらいに記録で走れるとは期待しなかったが・・・、これはイイ自信になります。」

アジア大会、大阪世界選手権に向けて、よい結果を期待ができるだろう。

女子3000m障害、早狩、世界選手権A標準にあと一歩

レースはタティアナ・ペトロワ(ロシア)が先頭に立ってレースを引っ張ったが、2000mを過ぎてから終盤は、欧州選手権の覇者アレシア・ツラワ(ベラルーシ)とジェルト・キプトゥム(ケニア)の争いだった。早狩は第3グループに付く。早狩は今シーズン自己最高記録9分49秒49で8位。早狩はレースをこう見た。「前を行く選手を追っていたのですが、後半疲れてズルズル後退。残念ながら、ちょっと最後は足が伸びなかった。」

男子100mは、大方の予想通りタイソン・ゲイ(USA)が絶好調振りを見せて、最後は軽く流して9秒88の好記録で楽勝。ゲイはガタリンが薬物使用で出場停止になった今、アメリカ最強スプリンターだ。ヘルシンキ世界選手権200mは4位だったが、今季100mを9秒84、得意の200mで史上5位の19秒66と記録を伸ばしてきたアサファ・パウエル(ジャマイカ)に迫る急成長の大学生。「100,200mとも自己記録更新。長いシーズンがやっと終了した。最高のシーズンを終えた。今季は100mでアサファに全敗したが、来季はアメリカンスプリンターが「世界最速男」の座を奪い返したい。」と、早くも来季にターゲットを絞ってきた。

老兵、ジョンソン110mhを12秒96の好記録で制す

アレン・ジョンソン(USA 35歳)は、完璧なスタートから劉翔(中国)、デイロン・ロブレス(キューバ)を圧倒、12秒96の大会新記録で優勝。老兵死なず!まざまざ35歳にして健在振りを世界に鼓舞した。アメリカ選手権準決勝でふくらはぎを痛めたため、今シーズン前半を棄権した。病み上がりで、しかもワールドカップ選考から漏れていたが、アテネに来たのは「コーチと練習仲間の女子400mh選手のラシンダ・ディムスらがアテネにきたから。出場するはずのライヤン・ウイルソンが故障で走れなくなったので、急にぼくに出番が回ってきた。スタートのタイミングが絶妙、リラックスしたのが好記録に繋がった。来年はアメリカの記録を奪い返したい。そして大阪世界選手権、北京五輪へ・・・、」ジョンソンの華麗なハードリンで、一回り若い世代との対決が続く。

男子3000m、ベケレまさかの敗退

ケネニサ・ベケレ(エチオピア)は積極的にスタートからレースを引っ張ったが、残り2周を残して失速。先頭に立ったクライグ・モトラム(オーストラリア)がギャップを広げて7分32秒19で完勝。両手を広げて大会2連勝を上げた。モトラムは「まさか世界長距離最強のベケレに勝てるとは!220mを残して、信じられないことにスクリーンに映し出されたベケレとの差は5mあった。最後のカーブを曲がってからさらにに差が開き勝負があったと思った。最後の50mは勝利に酔った。」一方、負けたベケレは「負けることもあるさ。ぼくは最後にばてたが、モトラムは最後までスピードが落ちなかった。」意外とさばさばしていた。

リチャーズ、200,400m2冠を制す

大会初日、サンヤ・リチャーズ(USA)は、今季400mで無敗を誇る。最後のレースで48秒70の自己新記録で優勝。こぶしを振り上げてゴール。余勢を駆って、翌日200mで22秒23で楽勝。「今季200(22秒17)、400mで自己記録を更新、ジャックポット、WC2種目制覇して最高のシーズンを終えた。」ちなみに、ジャマイカ生まれで12歳でアメリカ移住。コーチはクライド・ハード。

男子円盤投げ、バルト海の鉄人、アレクナ無敗記録更新中

今季17戦無敗の最低記録67.19mで優勝。最高記録は71.08m、健在振りを示した。北京五輪3連勝を目標に置く、元リトアニア大統領ボディガード。「毎年、若い世代の追い上げが迫ってきたので、勝つのは楽ではない。」と、いいながらもたの追従を許さない強さがある。

 

 

 

 

 

 

(06年月刊陸上競技誌11月号掲載)

 
(望月次朗)

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