ハイレ、またして悪条件に阻まれた世界最高記録
ベルリン・マラソンは、今秋のマラソン・シーズンの幕を開けた。 世界が注目した「皇帝」ハイレ・ゲブレセラシエ(エチオピア、33歳)が、30km手前からの独走で36km過ぎまで世界最高記録を22秒上回るハイペースで通過したが、終盤の強風に悩まされてペースダウン。世界歴代5位の2時間5分56秒で圧勝した。キャリア22回目の世界新記録達成はならなかった。3年前、同じコースでライバル、ポール・タガート(ケニア)が樹立した世界記録に1分1秒遅れた。 ハイレは「世界記録が破れれば最高だったが、2時間5分台も悪くはない。距離にすれば350m弱だろう。今回の条件は90%だったが、世界新記録はすべての条件が完璧でないと出せない。コリル(2時間4分56秒)が途中で棄権したことも知らなかった。スタートからすべてマイペース。ハーフを設定タイムどおり62分46秒で通過したが、ペースメーカーのスピードが不安定で走りにくかった。独走はそれほど苦にはならなかった。暑さはそれほど影響があったとは思われない。36kmまではよかったが、終盤からの強い風が横から前から吹いてきたのがきつかった。友人ポールの記録は偉大だが、世界記録はいつかは必ず敗ることができる。このレースで、まずエチオピ代表になることが条件だが、北京五輪への自信が持てるようになった。」と、マラソン転向に自信を持ったようだ。 ハイレがアジスアベバからベルリン入りしたのは、レースの2日前の金曜日の早朝だった。休むまもなく、地元ラジオ局のロビーに設けられた特設記者会見場に駆けつけてきた。ハイレ出場のベルリン・マラソンは世界中で注目を浴びた。マラソンに転向してから、ハイレは走るたびに世界新記録を期待される宿命を背負ってきた。その重圧にもかかわらず、02年ロンドン・マラソン(注:15歳でエチオピアで初マラソンを完走している)は、ハヌーチ、タガートと3人の争いだったが終盤で足が吊った。昨年のアムステルダムも世界最高記録ペースだったが、35km以降で暑さと風で失速した。今年のロンドンは寒く、雨で路面が滑り足を痛めた。いずれも世界記録に挑戦してきたが、不運にもそのたびに気象条件に阻まれてきた。タガートの世界記録樹立の日は、レースに理想的な9〜15度の気温、無風、練習パートナー、ペースメーカーのサミー・コリルとティツス・ムンジが絶好調だった。ペーサー2人の役目は32km止まりだったが、そのままタガートとゴール直前まで劇的なレース展開を演じた併走。予想外のレースが、人類初のサブ5分を実現した背景にある。 残念ながら、ハイレの3人のペースメーカーはそれほど質がよくなかった。また、ある人はハイレの走法では35km以降の終盤「限界説」を唱える人もいるが・・・、タガートが歴史的な快挙を記録した当時のレースディレクター、ホルスト・ミルデは「神からの贈り物だ」と称したように、偉大な記録には『運』が必要条件でもある。 ハイレは次のレースを訊かれて「来春のロンドンは契約があるので決まっているが、それまでレースがないのは退屈だ。その間にひとつレースを加えても心配ないので、多分、福岡になるだろう」と、公式発表前に口を滑らした。 ハイレは「日本とエチオピアの深い関係なども知っているし、アジスの日本大使館からも何度も招待を受けている。福岡の楽しい思い出をいっぱいアベベ・メコネン、ゲザヘンゲ・アベラらから聞いている。伝統ある福岡マラソンで一度は走りたいというのはぼくの希望です。」 レース後の夜、ハイレは宿舎のホテルのロビーの大型スクリーンに流された全レースを食い入るように眺めながら「前よりは上下運動が少なく、走りがマラソン選手になった」とコメントした。 日本選手は梅木蔵雄(中国電気)が2時間13分43秒で3位に入り賞金2万ユーロ(約300万円)獲得。中森一也(大塚製薬)が2時間22分47秒で18位。細川道隆(大塚製薬)は24km付近で途中棄権した。 梅木蔵雄(中国電力)2時間13分43秒で3位 「第2集団で走った。ペーサーが途中で棄権したり、早い不安定なタイムだった。前半で脚を使ってしまった。ハーフを過ぎるまで6か7位ぐらいと思ったんですが、沿道の人たちが3番にいると教えてくれましたが『エッ!』と言う感じでした。後半かなり強い向かい風でした。3位になっても、目標はサブ10分だったんで記録的には不満足です。」 女子優勝、ゲタ・ワミ(エチオピア)、エチオピア新記録2時間21分31秒樹立 「久しぶりの優勝で大変に嬉しい。エチオピア記録を自分のものにしたのは嬉しいが、目標のサブ20分には届かなかった。終盤、暑さと風で体力を消耗、サリナ・コスゲイ(ケニア)と一緒に走ったが、最後の数kmは非常にきつかった。」 (06年月刊陸上競技誌11月号掲載) |
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