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全米陸上 男子ハイライト、男女投てき種目の不振

男子400M 〜メリット圧勝〜

今大会のモットーは、「amazing awaits」。今大会最大の波乱は優勝候補筆頭のジェレミー・ウォリナーが大差で敗れ、今季、ショーン・メリットに2敗目を記したことだ。優勝タイムは44秒00。会場のヘイワード・フィールドのバックストレートはかなり強い向かい風。ホームストレッチは追い風に変わるためペース配分が難しい。ウォリナーは有利な5コース。それでも外側の6コースのメリットはウォリナーに一度もリードを許さず完勝した。4年前、メリットはグロセットで開催されたジュニア世界選手権で優勝。未来の大器と言われ、短期間に世界のトップ選手に急成長。今季いきなりベルリンGLで4年間不敗のウォリナーに土をつけたのは大きな自信となった。この時、メリットは、「ナンバー2の選手になるため練習をするものはいない。打倒ウォリーのため猛練習を積んできた」と胸を張った。この日も「スタート前から自信があった。自分のレースに集中。第4コーナーで、北京五輪での優勝をイメージ、金メダルを持ち帰りたいと思った」と、豪気だ。一方、ウォリナーは、「勝敗には失望していないが、自分のレースをしなかったのが失敗だ。五輪連勝に総てを掛ける。」と、2強の熾烈な争いは五輪まで続く。メリットの成長もさることながら、今季、無名のウォリナーを短期間にアテネ五輪優勝、2度の世界選手権優勝などに育てたクライド・ハート・コーチに、ウォリナーは昨年より低いコーチ料を提示したため折り合いが合わずに分かれた。練習内容、調整に微妙な影響があった。ウォリナーの公言する、「人類初の42秒台突入」の世界新記録と五輪連勝に・・・、大きな代償を払うことになりかねない。

男子5000M 〜ラガート、5000mで楽勝〜

男子5000mは予想に違わず、大阪世界選手権1500,5000m2冠の覇者、ベルナード・ラガート(34歳)が、暑い夜のレースを13分27秒47の平凡な記録で優勝。北京五輪2冠達成の第一歩を記録した。「トライアルの目標は1500,5000m2冠です。ユージン五輪トライアルを目指してハード練習を消化してきた。その最初の種目で勝ったので、少しはリラックスできる。新しい国を代表して、五輪出場できることは非常に大きな誇りと意味を持っている。96年にスポーツ留学生としてやってきて以来、様々なアメリカの人々からのサポート、恩恵を受けてきました。大阪世界選手権1日前(07年8月25日解禁)、アメリカ代表として参加が許された。あのときの喜び、そして2冠した感動をもう一度五輪で得たい。五輪日程もほぼ大阪と同じ。昨年は内臓の調子が良くなかったが、今年は体調が非常に良いのでベストを尽くして金メダルをアメリカに持ち帰りたい。3回目の五輪参加ですが、これまで以上に、メダル獲得に執念と情熱を持ち、ベストを尽くしたい。それがぼくにできる恩返しです。」

男子110Mハードル 〜オリヴァー悲願の初優勝〜

強靭な身体つきのデイヴィッド・オリヴァーは、緒戦を13秒24、2次予選を13秒07、軽く決勝2位のテーランス・トゥラメルを押さえ1位通過。セミでも12秒89(追い風2・0)で決勝3位になったデイヴィッド・ペインに勝って、単独サブ13秒を記録した。決勝もダントツの強さと豪快なハードリングを見せて12秒95を叩き出した。

「上位3位に入ることが大切。勝って代表に選考されて大変嬉しい。レースそのものは覚えていない。号砲がなって走っただけ。テレンスが早く走ることを予想していたので、彼を劉翔に見立てて走った。昨年より遥かに強くなっているし、経験も豊富になった。われわれは劉翔、ロブレスらを追う立場。かれらには連勝や世界記録保持者のプレッシャーが掛っている。失うものがない。面白い対戦になるだろう」

多少の追い風があったにもかかわらず、優勝記録は今ひとつ物足らなく感じた。現状では劉翔、ロブレスとの差は大きい。

五輪までにどこまでこのギャップをヤンキー魂で短縮するか、あわよくばアメリカ伝統の110mh優勝を奪い返すことができるか。この熾烈な戦いは五輪ハイライトのひとつだろう。

男子400Mハードル 〜ジャクソン5年ぶり全米1位、クレメント2位、ヨンパー復帰のテイラー3位〜

アメリカ五輪選考会の400mhは激戦だ。日本お馴染みのジェームス・カーターは準決6位で敗退。決勝は3コースに400mから400mh転向したアンジェロ・テイラー、4コースは4年前の選考会で4位になって涙を飲んだ、優勝候補筆頭のバーショウン・ジャクソン、5コースに現世界チャンピオンのケロン・クレメント、47.8秒台の強豪が並んだ。スタートから飛ばしたのは、アウトコースのクレメントだった。それを追うジャクソン、そのまた内側からテイラーが続く。10台目の手前でジャクソンが頭ひとつリード、クレメント、テイラーと続いてゴール。ヘルシンキ世界選手権王者のジャクソンが、大阪世界選手権覇者のクレメントに競り勝った。

ジャクソンは、「スタート前から身体がなんとなくだるかった。また、かなり神経質になって、もし、上位3位になれなかったら陸上競技を止めるとまでナーバスに考えていた。スタートから飛ばした。バックストレッチは向かい風が強かったので、走りが風の影響を受けた。風とまともに向かうことを極力避けてリラックス。力のある選手が多いので、上位3位に入ることを目標に最後のスプリント力を蓄えた。」

男子砲丸投げ 〜ホッファが3強対決制覇〜

砲丸投げ「黄金時代」と呼ばれる3強、現世界選手権覇者リース・ホッファ(31歳)、五輪連続2位のアダム・ネルソン(33歳)、08年室内世界選手権覇者クリスチャン・カントウェル(28歳)のベテラン3人がそれぞれワンショットで予選通過。決勝も予想に違わず、上位を3強が順当に独占して選考された。今年度はネルソンやカントウェルにやや押された内容でスタートしたが、五輪予選会の大一番で底力を発揮。6投目に22.10mの大台に乗せて吼えた。昨年に続いて2連覇。「出場する競技会では、いつも22mを越すことが目標だ。22mラインが優勝条件だと思っている。今日の優勝条件も変わらない。そのプレッシャーの中で勝ったので大変に嬉しい。ここで祝杯を挙げるつもりはない。多くの人たちから期待されて、しっかりと結果を出すことは難しい。目標はただ一つ、北京で勝つことだ。」2位のカントウェルは、「8人の誰かがネルソンを破るチャンスがあった。かれが3連続五輪出場権を獲得したのは運が良かった。今日の仕事は終わったが、飛行機切符を貰っただけ。6週間後の試合が総てだ。」。ネルソンは、「オレが選考されたのは運が良かった。ホファ、カントウェル、テイラーらが、大きいのを投げ始めたので、全力でベストを尽くした結果だ。過去2回の雪辱を果たしたいが・・・、誰が勝ってもおかしくない最強メンバーだ。今回はアメリカに優勝を持ち帰りたい」

男女投てき 〜アメリカ男女投てき大不振〜

女子ハンマー70.72m、円盤投げ65.20mは、国際トップスローアーの最低限であり、五輪メダル獲得は難しい。女子槍投げ65.20m、砲丸投げ18.85m、男子円盤投げの65.87m、槍投げの76.06m、ハンマー投げのの75.81mなど、男子砲丸投げ以外の投てき種目で欧州勢に大きく水をあけられた感じがする。知人にこの問題点を質問すると、「コーチの質の低下だ」と返答があったが・・・、それだけではあるまい。映画出演などで話題をよんだ「アメリカン・グラディエイター」と呼ばれ、昨年大阪3位、91.29mのアメリカ記録保持者のグリアが、派手なヘヤースタイル、マニュキュアで登場したが、わずか67.20mを投げて当然予選落ち。アメリカ伝統のパワーの誇りは薄れてきた。だが、暗い話だけではない。女子砲丸投で04年ジュニア世界選手権で優勝したミシェル・カーターが初優勝し,親子2代の代表入り。父親マイケルが1984年ロサンゼルス五輪2位。どちらにしても、現時点で北京では男子砲丸投げ以外で多くは望めない。

 
(08年月刊陸上競技8月号掲載)
(望月次朗)

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