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北京オリンピック開幕! 陸上女子種目展望

女子棒高跳、最高の舞台でイシンバエワは舞う

「競技場に入るたび、わたしは主演女優のような気持ち。助走路は舞台の花道、そこで舞う」と、イレナ・イシンバエワ(ロシア)は言う。あたかも棒高跳びを舞台で演じる女優に見立ている。観衆の注目度が最も高い選手のひとりだ。アテネ五輪優勝後、現男子棒高跳び世界記録保持者のセルゲイ・ブブカのアドバイスを受け、「高さ」への飽くなき挑戦のため冷徹な判断を下した。それまで育ててくれたコーチと分かれ、ブブカを育てたヴィタリー・ペトロフの元に飛んだ。居住をモナコに移し、コーチのいるイタリアのフォルミアで合宿を行っている。大阪、世界室内選手権で優勝したが、フェオヴァノワに敗れ23連勝を阻止された。イシンバエワと言えど、新らしい環境、高度のテクニック習得に約2年間停滞してきた。今季、イシンバエワの屋外スタートは、五輪を控えこれまでになく慎重に入念な練習を積んできた。その間、ライバルのジェファニ・スタチンスキ(アメリカ)が、五輪選考会で4.92mの全米新記録で優勝。気の早いメディアは、「女子棒高跳びの新女王誕生か」とまで煽り立てた。7月11日、例年になく遅くスタートしたイシンバエワは、今季屋外緒戦のローマGLで5.03mの世界新記録を樹立した。試合後の記者会見でイシンバエワは、真っ向から「わたしはまだ健在よ!」と、実力を世界に鼓舞した。そして、ストックホルムで5.85m、ロンドンでスタチンスキらと争い、格の違いをまざまざ見せつけて5.93mで連勝。7月29日、五輪前の最終モナコGPで、「モナコはわたしの地元。ここで世界新記録を狙う」と試合前に高々と宣言。公約通り5.04mの世界新記録を樹立。彼女自身23回目の世界記録更新を果たした。女子棒高跳は五輪歴史が浅い種目だが、2大会連続世界新での連覇は、男子マラソンのアベベが達成しているだけで女子種目では皆無だ。最高の舞台でどんな「舞」を見せるだろうか。今から楽しみだ。


女子800m、ジュニアのジェリモ圧勝か

始めてパメラ・ジェリモ(ケニア、19歳)を見たのは、アディスで開催されたアフリカ選手権大会だった。今季から800mに転向した2回目のレースだった。スタートからゴールまで、まるでムトラを始め他の選手を全く無視してブッチギリの優勝をしたのには驚いた。1分54秒97を筆頭に、54秒台2回、55秒台4回を出して無敗を続けている異色ナランナーだ。掛け値なしに強い。ところが、ジェリモの活躍に刺激されたのか、ロシア選手権と大阪で2位、世界室内1500mで世界新記録で優勝したイェレナ・ソボレワが、1分54秒85の今季世界ランキングトップの好記録で優勝。ジェリモの独走に待ったをかけた。彼女は五輪で800mと1500mダブルを狙ってくる。が、7月30日、IAAFが発表した検査手順の不正操作に尿サンプルのすり替えがあったという。DNA鑑定による1年以上にわたる調査の結果判明した。この7名の選手の中にソボレワの名前がある。今後、ロシア陸連の承認いかんによって、出場選手が大きく変わるだろう。大阪世界選手権の覇者ジャネット・ジェプコスゲイ(ケニア)も、これまでは連敗しているが、調整は五輪に照準合わせてきている。息の長い1988年のソウル五輪(1500m)でデビューした大ベテラン、35歳のマリア・ムトラ(モザンビック)が引退の花道として参加。10月に36歳を迎える彼女は五輪1勝(00金=96年銅、04年4位)、世界選手権3勝(93、01、03)などの実績を誇る。昨年の大阪は決勝の残り100mでリタイア。最後の五輪では決勝にコマを進められるか。ロシア勢はジェリモ潰しの作戦を取ってくるだろうが、ジェリモは徹底的にマイペースでスタートからゴールまで早いペースが勝つポイント。


女子走高跳、ヴラシッチ、世界新記録で優勝か

ブランカ・ヴラシッチ(クロアチア)は、大阪で優勝、ワールドアスレティックファイナル、世界室内など優勝。五輪に35試合無敗記録で乗り込むだろう。今季2.06mを2回クリアーを筆頭に、2.05mを2回、.04mを1回、.03を3回など、どんな条件でも2mを下ることはない。他の追従を全く寄せ付けない高いレベルで連勝を続けている。2位争いは、アリアネ・フリードリッヒ(ドイツ)が2.03を1回、2.00を3回クリアー、アテネ五輪優勝者のエレナ・スレサレンコ(ロシア)が2・02mを1回跳んでいるだけ。2位以下は団子の背競べといったところだろうか。ストックホルムGPに2mを越えて優勝。連勝記録を34回に伸ばし、2mを31回目をクリアー。彼女ほど五輪優勝予想率の高い選手の存在はいないだろう。なんども世界新記録に挑戦しているが、世界新記録で五輪優勝が達成できるかもしれない。




 
(08年月刊陸上競技9月号掲載)
(望月次朗)

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