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ボルトの五輪再演3冠王なるか、ゲイのスプリント2冠連覇の可能性は

世界最速男の対決

北京五輪スプリント3冠王、ウサイン・ボルト(ジャマイカ、22歳)は、シーズン直前、自動車事故で車が大破しながらも奇跡的に無傷の生還。強運の『ライトニングスピード』を持つ男は健在だ。大阪2冠のタイソン・ゲイ(アメリカ、26歳)は、今季100,200m世界ランキングナンバーワンで健在、虎視眈々と五輪リベンジを狙ってくる。今季のボルト対ゲイの直接対決は、ベルリン世界選手権が最初。大会最大のクライマックス、世界を熱くする一瞬になろう。

ボルトはジャマイカ選手権で、故障上がりの元世界記録保持者のアサファ・パウエル(ジャマイカ、27歳)らを全く問題にせず9秒86で楽勝。本格的にシーズンを迎えた。どこでも大勢のメディアに囲まれ、熱狂的な人気で観衆に迎えられる。ボルトのカリスマ、これまでのスプリンターに見られなかったショーマンシップは、80年代のカール・ルイスを超えるものだろう。

世界選手権前、欧州GPで4戦連勝して圧倒的な強さを印象づけた。しかし、ボルトの出場したレースがことごとく雨、向かい風の悪天候だった。雨中のオストラバGPで自ら「最悪のスタート」と言いながら、追い風のため非公認ながら9秒77だった。ローザンヌGPは、今季初の雨中200mに出場して19秒59。続くパリGLは雨中で肌寒く、向かい風、スタートも悪く9秒79の好記録だった。

「オレは雨男!」、「スタートが悪い!」と、苦笑しつつも、「(ロンドンGPで)現状は85%の調整だ。世界選手権までになにをしなければならないかはわかっている。(雨中でのレースは、)本番に向けてのいい練習になった」と、軽口をたたいたが本心ではなかったはず。ロンドンGPでもパウエルらを抑えて優勝したものの、予報に反してなんとか雨は避けられたが向かい風1.7m、9秒91.の平凡な記録に終わった。ボルトは、「この時点で大切なことは記録よりパーフォーマンス」と、大方の懸念を一蹴。英国内で調整して本番に備える。

「『ナンバーワン』をキープするのはオレの仕事だ。誰も恐れることはないが、オレは不敗の男ではない。負けることもある。タイソンは要注意だ。200mはがんばらないと勝てない。コーチは、『勝つことを習う前に、負けることを習え!』と教えてくれた。TV、新聞に目を向けることはない。しかし、日常生活にストレスを感じることはたまにあっても陸上競技はリラックスできる。ベストを尽くして昨年と同じ結果を作りたいが、優勝することが大切で世界記録を破ることではない。今季200mは1回ローザンヌで走っただけ。後半の持久力の練習と大会に備えて、なにをしなければならないのか十分に理解している。オレの弱点はスタート。大会に備えて、十分にチューンアップをしてくる」

例のボルトが五輪中に世界中に広めたポーズ、「ライトニング」とニックネームがついた。新しいポーズをベルリン用に考案中とか。ボルトと同じクラブで一緒に練習している選手3人から興奮剤の薬物問題が起きたが、ボルトは「俺は関係ないこと」と、全く動揺せず一蹴。 ウサイン・ボルトは、「ベルリン世界選手権大会で五輪3冠獲得がフロックでないことを証明、『レジェンド 』(伝説的)を目指してベストを尽くす!」、また、「今後少なくとも10年間は、世界のトップで活躍、年間11億円を稼ぐことが目標だ」と、ベルリンでさらに大きな躍進を約束した。

一方、ボルト正反対の性格、物静かなライバルのタイソン・ゲイ(アメリカ、26歳)が予想以上に好調だ。ゲイは5月30日、NY GP200mで19秒58の今季世界最高記録を叩きだした。大事をとってアメリカ選手権は、予選だけでほかは棄権したが、7月10日、ローマGLでも強烈なカムバックで存在感を見せた。追い風0.4m、気温25度の絶好のコンディションで今季世界最高記録の9秒77でパウエルを問題なく抑えて優勝。これは自己のもつアメリカ記録とタイだ。ゲイは、「この記録で世界選手権2冠を防衛するチャンスが100%生まれてきた。大会前、故障しなければ・・・、かなりやれる自信がついた」と喜んだ。

7月26日、ロンドンGPは200mに出場。「自分の調整結果をチェックするだけ」と言いながら、最後の10mは軽く流して20秒00で圧勝。ゲイは、「ローマGLから、故障でほとんど練習していない。股の付け根(Groin)が張って少し痛かったのできつかった。いつものようにウォーミングアップも十分にすることもせずに走った。だから最後に流したのさ。流さなければ、少なくとも19秒80ぐらいで行ったんじゃあないかな。ボルトは100mで自分が優勢と言っているらしいが、そんなことはない。少なくとも、ボルトはオレが調子を上げてきたのを知って、自分に納得するように言ったに過ぎない。ボルトが恐れているのはオレさ。1レースごとしっかり走ることを考えるだけ。オレは故障さえなければボルトを恐れることはない」と、記者会見を抜いてマッサージに急いだ。

今季のゲイの200mの記録は、NY GPで気温22度、追い風1.3mの好状況で記録した19秒58。ボルトは雨中のローザンヌで気温14度、向かい風0.9mの悪条件下の19秒59だった。ゲイ大会前最後のレースはストックホルムGP100mでゲイ対パウエルが対決だった。ゲイもスタートが大きく遅れたが、後半の加速で一挙にトップに飛び出し、そのままゴール。追い風2.6mのために非公認ながら9秒79、ダーヴィス・パットン(アメリカ)が9秒95の2位、パウエルは9秒98で3位に終わった。ゲイは『風があったのは知っていた。これでオレが「熱い」ことを証明できたはず』と、ボルトに挑戦状を叩きつけた。

1936年ベルリン五輪会場は、外観は当時の面影がそのまま残されている。三段跳びで優勝した田島直人、不摂生の名スプリンター、ジェス・オーエンスらが活躍した同じ会場で、64年後の8月16日、ボルト対ゲイによる「世界最速男」決定の瞬間がやってくる。

 
(09年月刊陸上競技9月号掲載)
(望月次朗)

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