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ベテランの意地が生んだ渾身の一投 

8月18日、地元ドイツ初の金メダル獲得は、予想外のベテラン槍投げ選手ステフィ・ネリウス(ドイツ、37歳)だった。ネリウスは元東独出身。1992年第6回目キューバの首都ハバナで開催されたワールドカップに出場。56.24mを投げて6位に入賞を果たして以来、数々の修羅場を経験してきた。

そもそも、決勝の上位争いは、3選手の予想だった。 北京五輪優勝、世界記録保持者のバルボラ・スポタコワ(チェコ、28歳)、五輪2位のマリア・アバクモワ(ロシア、23歳)は、予選一投目に今季世界最高記録の68.92mを投げて絶好調を鼓舞した。地元の声援を味方につけたクリスティーナ・オベルグフェ(27歳)も60.74mで予選B組を3位通過した。 これらの3選手で北京五輪のリベンジ戦と予想された。 ドイツは決勝に3選手を送り込んだ。観衆はオベルグフェの優勝かメダル獲得を期待してオリンピック競技場に足を運んだのだろう。この日、少なくとも地元最大の関心は女子槍投げのメダル獲得だった。

予選通過記録は62m。トップ12位が決勝進出。 ネリウスは予選A組に出場。一投目61.00m、ファオル、61.73mを記録してこの組5番目の記録で予選通過を果たした。

決勝のネリウスは投擲順位4番目だった。 トレードマークのヘヤーバンドで助走路に向かった。 「勝てるとは夢にも思わなかったが、初回に66−67mを投げてプレッシャー、ショックを与えたかった」 自らの実力を熟知したベテランの意地、プライドでもあった。

「リズミカルな助走からヤリが手を離れた瞬間、手ごたえがあった!」 掲示板に67.30mと出た瞬間、あたかも優勝したようにネリウスが吼えた。 「ヤッタ!と思ったが、この記録で優勝するほど世界選手権は甘くはない。せめてメダル獲得に結びつくことを願っていた。 コーチは『良かった!』と言っただけ。

その一投で「まさか優勝するなんて!感激のあまり言葉もなかった。観衆、コーチ、フィジオらのバックアップに感謝したい。地元開催の世界選手権、家族、友人、大観衆の目の前で優勝するなんて夢がホントに実現した。06年欧州選手権では最後の投擲で劇的な優勝をつかんだが、今回は最初の投擲の記録で勝ったので、優勝決定する瞬間まで非常に長く感じたね」と苦笑した。

そして最後に、引退はまだ先の話しと結んだ。

 
(09年月刊陸上競技10月号掲載)
(望月次朗)

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