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ケニア完全復活か、史上初の全種目に優勝

日本選手は健闘したものの、世界との格差広がる

第38回世界クロスカントリー選手権大会が、ポーランド首都ワルシャワの西250kmの発音が難しいビドゴシュチ市で3月28日に開催された。02年、長年、ケニア勢が独占してきた個人タイトルを奪って以来ケネニサ・ベケレ(エチオピア27歳)が5連覇6勝してエチオピア勢の優位が続いてきた。しかし、今年は史上最強のベケレ、ゼルセナイ・タデッサ(エリトリア)らが不在。満を持したケニア勢は男女シニア、ジュニア個人、団体戦らのすべての種目に完全優勝。エチオピアの独占時代が終焉を迎えた。ちなみに、1994年ケニアは8種目中7種目に優勝した。

08年、この町でジュニア世界選手権が開催されるなど、ポーランド陸上競技は伝統的に世界の強豪国の一員と言っても過言ではないだろう。現IOC委員イリナ・チェビンスカは、64年東京五輪4x100m優勝、走り幅跳びで3位。76年モントリオール五輪までの長いキャリアで100m〜400mで金3、銀2、銅2個と現在に至るまでポーランド史上最強の女子選手。男子は、五輪20,50km競歩で4回優勝した史上最強ロバート・コルゼニオスキらを生んだ国。現役選手も男子砲丸投げ、円盤投げ、ハンマー投げ、女子棒高跳び、ハンマー投げで、世界トップ選手が活躍している。クロカンはかつて強かった欧州で人気を失い、世界クロカン開催地を探すのに苦労していた。その矢先、ポーランドが救いの手を差し伸べて開催できた経緯がある。まだ、春には遠く寒く、レースが始まった正午の気温は9度だったが、心配された雨もなかったのは幸いだった。来年、世界クロカン大会は開催されず、今後から隔年開催に決まっているので次回開催は2年後になる。

ジュニア女子、距離6000m(2000m×3周)参加:26国,出場95名

チェロノが昨年のリベンジを果たす、ディババ3連覇ならず

スタートから先頭に立ってレースの主導権を握ったのは、昨年ゴール前のスプリント勝負を制して優勝したゲンゼベ・ディババ(エチオピア、18歳)に惜敗して2位に甘んじたメルシー・チェロノ(ケニア、18歳)。18分47秒で圧勝した。この1年で逞しい成長を見せた。史上初の大会3連覇を狙った「ディババ」が優勝候補筆頭だったが、不慣れな軟弱なコースで持ち身のスピードを生かせず、予想外の疲労で11位だった。

チェロノは優勝の喜び 「昨年、悔しい思いをし、この1年打倒ディババの準備を周到に消化してきたので今度こそは勝ちたいと思っていた。もちろん、同僚のケニア選手、ディババを始めエチオピア選手らをマークしていた。先頭に立ってレース展開の主導権を握るのは、ケニア選手であればだれでもいいが、コーチからわたしがするように指示があった。レースの中盤から予想外にディババらが遅れて、ケニア4選手の争いになった。ケニア選手のだれが勝っても良かった。今日のようなコースは、わたしは走りやすかったしそれほど難関とは思っていない。これ以上に最悪のコンディション、起伏の激しいコースで走った経験があるし、正直言って気温も寒くなかった。とにかく勝って大変に嬉しい」トップ4位までがケニア勢が独占。

伊澤菜々花(豊川高3年)は日本選手トップの20分17秒で、アフリカ選手以外のロシア、アメリカ選手に次ぐ3位と健闘したが昨年のエジンバラ大会に続き同じ17位だった。末吉茜(諫早高3年)は20分53秒で33位。安藤友香(豊川高1年)は20分22秒で22位、田辺千尋(神村学園高3年)21分25秒で47位、木美乃里(豊川高2年)は20分26秒で24位、日高YU(????紀(北九州市立高2年)は1周目で棄権した。

団体戦もケニアが圧勝、エチオピア、ウガンダ、日本の順だった。

ジュニア男子、距離8000m(2000m×4周)参加:29国、出場121名

大会開幕の女子ジュニア結果と同じく、男子ジュニアも上位4位をケニア勢で独占する圧勝。とても17歳とは思えない。昨年ユース世界選手権1500mで2位、3分38秒02の記録を持つ大型のカレブ・ワンガンギ・ンディクが優勝。続く2位のクレメント・キプロノ・ランガト(18歳)、3位のやや小柄のジャフェット・キピェンゴ・コリル(16歳)、4位の大型のイサイア・キプランガット・コエチ(16歳)らが、スタートから横に並んでトップ集団の壁を作りレース主導権を取り、そのままゴールに続いた圧勝だった。かれらの背後にエチオピア、ウガンダ、長距離に進境著しい若手の南ア選手が数名続いた。最終ラップに差し掛かる手前で、ンディクがするすると前に出て、2位のランガトらの集団とギャップがでてきた。最終ラップは、ンディクが独走の2秒差でそのままゴール。

「一度も後ろを振り向かなかったので、勝つとは思わなかった。特に、勝つための作戦は全くなく、ただ、マイペースの走りで完走した結果だ。神からパワーを授けられた。この勝利を神に感謝したい。一部のコースは泥濘があって走りにくく、簡単なコースではなかったがそれは参加選手全員同じ条件だ。こんな条件の中でのレースは、ケニア選手が強いのは当然。父親がやり投げの選手だったので、子供のころやり投げ選手を目指したが、難しくてすぐに辞めて走るほうに決めた。1500mから長距離をやって行きたい」と、ンディクの優勝コメントだった。

2位になったランガトは「前が空きすぎたが、追い上げたのが遅かった。でも、ぼくはケニアトライアルでは7位だったのでここでは予想外の2位!」と大喜び。

アフリカ以外のトップ選手は村澤明伸(佐久長聖高)が23分29秒で28位。かれは今回で3年連続して世界クロカンに出場。08年は高校1年生で出場、37位、昨年27位だった。大迫傑(佐久長聖高3年)は23分42秒で32位、本田匠(九州学院高3年)が23分48秒で35位、西池和人(須磨学園高2年)24分1秒で38位、市田考(鹿児島実高年)は24分9秒で40位、両角駿(佐久長聖高1年)は故障のため26分40秒で101位。団体戦優勝はジュニア女子と同じケニア、エチオピア、ウガンダの順位で日本は6位だった。

シニア女子、距離8000m(2 000m×4周)参加27国、出場86名

大きな番狂わせが起きた。五輪2冠、世界選手権、過去3回の世界クロカン個人レース優勝のティルネシュ・ディババ(エチオピア、24歳)がメダルなしの4位。ケニアトライアルで4位、これまで大きなレース経験の全くないエミリー・チェベット(ケニア、23歳)が、昨年の世界選手権10000mの覇者、リネット・チェプクウェモイ・マサイ(ケニア、20歳)とのゴール前のスプリント争いを制して24分19秒、1秒差で初優勝。3位にはケニア勢独占を辛うじて阻止したメセレチ・メルカム(エチオピア、24歳)が入った。

このレース展開もスタートからゴールまでケニア勢の独断場。しかし、中盤からベルリン世界選手権10000mを獲得した長身のマサイが積極的にペースアップ。先頭集団が小さくなっていく。最後のラップはマサイが先頭、続くチェベット、メルカムらが背後に続く。最後のコーナーを曲がり、60m先にゴールが見えると、ピタリと背後で追走していたチェベットが、満を期してマサイを瞬時に抜いて初優勝。マサイは力尽きて2年連続2位。負けたのが信じられないような表情だった。3位のメルカムはこれで4度目の銅メダル。チェベットは07年ケニア選手権10000m優勝,大阪世界選手権10000mで9位。世界中のトップランナーを相手に勝ったのは特別なこと。

「レース前、出場選手の顔触れをみると、勝てると思わなかったがとにかく前に着くことを考えて走った。最後まで忍耐強く、ゴール手前スプリント勝負に出たのが成功した。やっと大きな大会で勝ってこんなうれしいことはない!」と、少し微笑んだ。今季の屋外レースが楽しみだ。2年連続2位に終わったマサイは、「優勝を目指したが、長い距離を先頭に立って走ったので最後は疲れた。あそこで負けるとは…、運がなかった」と、ガックリ。またしても3位に終わったメルカムは、「予想以上にタフなレースだった。優勝を狙ったが、ジュニアレースを見てきついレースになることが予想できたが、マサイらのハイペースにやられた」と苦笑。

日本選手は、竹中理沙(立命大)は26分29秒で30位、新谷仁美(豊田自動織機)26分30秒で31位、水口郁子(デンソー)26分57秒で43位、児島一恵(立命大)26分59秒で46位、清水裕子(積水化学)27分7秒で49位。林奈々子(ヤマダ電機)27分13秒で79位だった。

団体戦の優勝はケニア、エチオピア、アメリカの順で日本は7位。

シニア男子、距離12000m(2000m×6周)参加39国、出場136名

優勝のジョセフ・エブヤ(ケニア、22歳)は、

「最後のラップになってもかなり余力があって、並走していたエリトリア選手の表情が疲れていたので、勝てそうな気がしたが…、勝負は最後まで気を抜かなかった。今年、エジンバラ開催の雪の中のレースでベケレに勝って自信を持ったが、もし、ベケレが出場していたら、レースが全く違うものになって勝つことはできなかったろう。かれが好調なら勝つことは難しい。でも、勝って非常に嬉しい。今年の目標は、地元ナイロビ開催のアフリカ選手権で優勝することだ」と大喜び。

クロカンの王者、ケネニサ・ベケレ(エチオピア、27歳)、3月のリスボンハーフでサミュエル・ワンジルの持つ世界ハーフマラソンの記録を破った07年世界クロカン優勝経験のあるゼルセナイ・タデッサ(エリトリア)らが欠場。昨年の覇者ゲブレグギアブヘル・ゲブレマリアム(エチオピア、26歳)らのエチオピア勢は若手主体、優勝予想はだれが勝ってもおかしくないオープン状態。この日、ジュニアからケニア勢が連続優勝。かれらの快進撃は止めようにも止められない勢いがあった。がっちりした体躯のエブヤ、2位になった長身のタクレマリアム・メディン(エリトリア、20歳)、小柄だがガッチリとしたモーゼス・ンディエマ・キプシロ(ウガンダ、25歳)ら、ケニア、エリトリア、バーレーン、カタールらの選手が一段となってトップ集団を構成。エブヤ、メディンらが中心になってグングンスピードアップ。この二人の先陣争いが激しくなるに従い、後続が振り落とされる。残り1kmを残して、エブヤ対メディンの優勝争いに決着。エブヤが2位に6秒の大差で初優勝。ケニアは99年ポール・タガートが最後に優勝して以来の優勝を飾って、史上初の完全優勝で締めくくった。なお、8位のポール・キプンゲティチ・タヌイ(ケニア、19歳)は、ステファン・マヤカに素質を見出されて九電工に所属。ケニアトライアルで30秒の大差で並いる選手を制して優勝。国内を驚かせたと言う。

日本選手は、鎧坂哲哉(明大)が35分48秒で76位、梅枝裕吉(NTN)35分51秒で78位、野口拓也(日体大)36分2秒で82位、早川翼(東海大)36分19秒で93位、出口和也(日体大)36秒23で96位、大石港与(中大)36分46秒は119位だった。

団体優勝はケニア、エリトリア、エチオピアの順で日本は16位に終わった。

 
(10年月刊陸上競技5月号掲載)
(望月次朗)

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