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世界ジュニア選手権日本選手の活躍とハイライト

第13回世界ジュニア選手権大会が7月19-25日、カナダ東部のモンクトン市で開催された。日本チームは、前回メダル獲得ゼロの不振から見事に脱却。一転、金1を含むメダル獲得5個、入賞は16を数え、ポイント63点を獲得。世界ランキング7位の史上最高の成果を上げた。

かつて大陸横断の鉄道の町として繁栄したモンクトン市は、人口12万ほどだが英国系が60%、フランス系が40%で構成されている市民全員がバイリンガルと言えようか。町の中心部のメディアホテルに滞在した。のんびりした田舎の静かな町だが、世界ジュニア大会開催のため、1万人収容スタジアムを大学構内に建設。カナダの首相が直々にスタジアムを訪れ、世界選手権並の規模の開会式で開催宣言してスタート。U世の高校教師で競技審判の高橋さんは、エドモントン世界選手権も経験したと言うが、カナダ中から国際競技審判を招待して運営されたとか。競技進行も流れるように進むように徹底。裏方のボランティア活動の人たちの「やる気」、心温まるサービスは嬉しかった。大会史上もっとも素晴らしい選手権を経験したことは疑いない。

最後に、日本選手の意識の高さを特筆したい。これまで世界ジュニアは、大会直後のインターハイ重視傾向が強く、参加はするが世界ジュニア軽視が指摘されてきた。しかし、今回メダル獲得選手だけではなく、相当に高い確率で選手が世界を意識した明確な言葉を率直に表示している。ある女子選手は決勝進出、健闘及ばずわずかな差でメダルに手が届かなかった。レース後、悔し涙で声にならなかった。また、ある男子選手も「優勝を狙ったのに!」と言って泣いていたのが印象的だった。

この感触を忘れずにいてほしい。世界ジュニアは世界に飛び出るスタート地点に過ぎない。インカレ、日本選手権を超えた向こうの世界選手権、五輪を目標にして持てるポテンシャルを最大の努力で大きく開花させてほしいと願う。

女子5000m、鈴木5位、伊澤8位

レース開始が20時20分、公式には気温22度、湿度87%と発表されたが、実際にははるかに暑く感じた。スタートは地元の選手が4000mまで先頭でレースを引っ張った。2日前の3000m優勝者のメルシー・チェロノ(ケニア)、前回2位のゲンゼベ・ディババ(エチオピア)らが、最後50mのスプリントで争い、ディババがチェロノとの決着を付けて初優勝。

日本選手は鈴木亜由子(名大)が自己記録16分08秒41を大幅に破る15分47秒36で5位。これはアフリカ選手以外でトップ。鈴木は、「初めての海外レースなので思い切って前に出たし、最後はかなりよい走りができました。この大会があること自体も知らなかったし、出場はフッと沸いてきた話で、急に決まりました。レースが重なったので、ここに来る前疲労を抜くことに重点を置いてきたのが効果的だったかもしれません。とにかく、自己記録更新は大変に嬉しい。」


:伊澤菜々花
「前半はトップに付いて行ったんですが・・・。なんかレースでピリッとこなかった。タイムも良くないですね。大学に入学して環境が変わったので、なかなか調子が上がってきません。順位は現状ですね」

: 男子5000m 村澤明伸(早稲田)8位
「練習は予定通り消化してきたし、イイ調整ができたと思ったのですが、いざレースになると身体が動かなかった。前を走っていたモロッコ選手(注:13分28秒92で3位)についていったのですが、途中で振りきられました。」

:男子5000m 西池和人(早稲田)7位
「自己記録(13分58秒68)をわずかでも更新(13分54秒33)できたのは良かった。勝負を掛けてもう少し前について行こうと思ったが相手の力が上。しっかり自力を付けて、後半の力をもっと付ける課題が見えました。」

:男子やり投げ優勝者、ティル・ウォシュラー(ドイツ)
ひときわ巨漢のウォシュラーは、予選通過を1投目で難なく決め、決勝1投目で82.52mの史上4位の好記録、今大会ただ一人80mの大台を投げてあっさり優勝を決めた「怪物くん」だ。身長2m、体重110kgを軽く超える巨漢。1投目で腰を痛めたので大事を取って2回パスした。ディーンが4投目に自己新記録を更新して追ったが、ウォシュラーを脅かすまでは至らなかった。

「決勝第1投目で腰を痛めたので、大事を取って2,5投目をパスした。その他の投げはそれほど良くなかったが、優勝はハード練習のたまもの。大変に嬉しい。できれば今季中にやり投げの世界新記録(注:アンドレアス・トルキルトセンの持つ83.87m)に挑戦したい。」

:男子ハンマー投げ優勝者、コーナー・マックローフ(アメリカ)
マックローフは今季80.79mの世界ランキング2位を引っ提げて、予選を1投目で軽々通過。優勝を期待されたが、決勝の1投目で今季世界ランキング1位の81.15mの記録保持者アコス・ヒュディ(ハンガリー)が78.37mでトップに立った。しかし、マックローフが2投目で80.79m、史上6位に相当する好記録を投げ、これまでの大会会新記録78.42を大幅に破った。この1投は効果抜群。ライバルを心理的に崩す強烈なプレッシャーを与えた。この時点で、ほぼ彼の優勝が決定した。

マックローフは、「前回75.88mを投げて2位。優勝を目差してハード練習を消化してきた。予選1投目で今季自己記録を更新したので自信になった。決勝でヒュディとの対決になると思ったが、2投目で80mを投げて心理的に戦いを制して勝てた。優勝できてホットした」と、大喜びだ。

:男子400mh、ジェヒュー・ゴードン(トリニダードトゥバゴ)
ベルリン世界選手権400mh決勝で48秒26の好記録で4位の実績を持つ怪物ハードラー。今季も48秒47で世界ランキング断トツの記録保持者。しかし、予選を苦も無く通過して決勝に進んだが、予選通過記録トップは安部だった。決勝は安部が6コース、5コースのゴードンがスタートから思い切って飛ばした。ゴードンは、「日本人をマークしてスタートから飛ばし過ぎ。少し疲れたが勝って良かった。前半を飛ばしたので、直線に入ってからの後半、スピードを落とし過ぎた。直線に入ってから、日本人ランナー(安部)が追ってきているのを感じたので、勝つのは楽ではなかった。どうしたらよいかわからなかったので、無我夢中でゴールを目指した。かれは最後のハードルを引っかけたので、多少スピードを殺したのかも。来年は世界選手権を頑張る」と。

:男子走り高跳び、ムタズ・エサ・バルシム(カタール)
ムタズ・エサ・バルシム(カタール)が、アジア選手権でだした歴代8位の2.31mの快記録を引っ提げて世界選手権にやってきた。期待にたがわず、予選から断トツの強さを見せ、決勝に入っても危なげなく2.26mを2回目に飛んで、この時点で優勝を決めた。かれのジャンプ力はもとより、今春、カタールで開催された室内世界選手権より遥かに技術的な成長が見られる。2.26mからバーを一挙に2.30mに上げて、これを一発で成功。2.32mにバーを挙げたが3回とも失敗。

「2.26mで失敗したが、あの失敗は自分の跳躍を調整するために重要なことだった。むやみに走り、ジャンプすることは無意味だった。集中力を高めて慎重に飛んだので2.30mが一発で成功した。2.32mの初回のジャンプが良かったが、惜しくもバーが落ちた。選手権は勝つことが記録より大切。勝って大変に嬉しい。」

三木汐莉、女子400mhで57秒35の日本ジュニア新記録で惜しくも4位、


大会5日目は日本男子選手の1日の獲得メダルが史上最高のメダルラッシュに沸いた。一夜明けた大会6日、男子勢の活躍に大きく刺激されたのか、三木汐莉(東大阪大学)が女子400mh予選から好調な走りを見せた。決勝では後半猛烈な追い上げを見せて僅差で4位に食い込み57秒35のジュニア日本新記録を樹立した。特に、最後のハードルを越えてからゴールまでの力走は特筆される。ゴール直後に話すことができた。優勝できなかった悔しさで目を真っ赤にして泣きながら気丈にインタビューに答えてくれた。

―決勝はメダル獲得を目標に走りましたか。
三木―いや、予選から調子が良かったので決勝は勝つことしか考えません。ですから優勝を狙いましたが、タイムは悪くはないのですが残念ながらメダルにも手が届かず悔しいです。

―レースの感想は。
三木―前の人が前半早いペースで行ったので、焦ってしまい5,6台目あたりでかなり遠くなって足が全然合わずリズムを狂わせて自滅してしまいした。結局自分のミスですが、せっかくの勝てるチャンスを失ってしまいました。

―でも記録は良かったでしょう
三木―(しばらく声にならない)選手権大会ですから記録よりは勝ちたかったです。

原田康弘監督談

「前回のメダル獲得ゼロから一転して、メダル獲得予想は2個と二桁の入賞を目安にしてきたのですが、予想以上の成績を挙げてくれました。今回の成績は、金1、銀2、銅2個獲得、入賞は16人、IAAFの総合獲得ポイントが63点でランキング7位の成績です。これまで日本選手は限られた種目で活躍してきたが、今回のメダル組に200m、400mh、やり投げ、走り高跳び、女子10000m競歩、あと一歩でメダルに手が届かなかったが、女子400mhで4位、100m決勝に進んだ選手など、広範囲の種目で活躍したことが特筆されます。以前からユース、ジュニアから一貫して、世界に目的意識を向けてきた効果と才能豊かな選手が揃った世代とがうまくかみ合ったことが良い結果を生んだ背景だと思います。また、昨年から3回の合宿で、『世界』へ高い意識を持つことを伝えてきました。この時期はインターハイと重なり、大変に難しい時期ですが、世界はユース、ジュニアから多くの選手が育って世界選手権、五輪と直結する高い目的意識のレールが敷かれています。」

 
(10年月刊陸上競技9月号掲載)
(望月次朗)

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