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第20回欧州陸上競技選手権バルセロナ大会

1992年バルセロナ五輪大会以来、モンジュイック丘で第20回欧州選手権大会(7月27日―8月1日)が開催された。この五輪競技場で大きな陸上競技大会が開催されたのは初めて。大掛かりな化粧直しを施し、6日間の大会に備えた。バルセロナは港町だけに、日中35度を超す気温に湿度が高い。夜になると多少はしのぎやすくなるものの、気象条件はかなり厳しいコンディションだった。

欧州勢の世界トップクラスの実力を誇る種目は、やはり男女フィールド種目だ。男女跳躍、投擢のすべての種目で世界最高クラスの競技が見られた。今回、今季史上初の白人選手による「サブテン」を記録したクリストファ・ルメートレ(フランス、20歳)が100,200m、4x100mの3冠を達成。スペイン勢の男女1500mで劇的な優勝、モハメド・ファラー(イギリス、27歳)が長距離2冠など、華々しく大会を飾ったが世界的レベルには至らない。欧州男女のスプリンターの実力は世界選手権、五輪では決勝進出は難しい。国別対抗では、常勝ロシア勢が圧倒的な金10、銀6、銅8、合計24個のメダルを獲得。不振を続けてきたフランスがルメートレ「効果」で史上最多18個を獲得して気を吐いた。3位には英国が続いた。

ルメートレ、スプリント3冠達成!

若きフランスの「星」、クリストファ・ルメートレ(フランス、20歳)が、100mで38年ぶりにフランスに優勝をもたらした。フランス短距離史上初の金字塔、100、200m、4x100mの3冠を達成。かれの苗字のごとく、欧州最速スプリント「マスター」(注:仏語)に輝いた。白人選手の優勝は、1982年アテネ大会以来の珍しい結果だ。フランスのメダル獲得数は、ルメートレ「効果」でロシアに続く2位。史上最多の金メダル8個を含む18個のメダルを獲得した。

シーズン開幕前から、国内メディアはルメートレの走り、白人最初の歴史的サブ「10」チャンスを執拗に追いまくった。その重圧からか、再三のレースでフライング失格や気象条件に恵まれず、サブテンの「壁」を破ることができなかった。しかし、7月9日、ヴァランスで開催されたフランス選手権で、歴史的な白人選手による9秒98、その翌日、得意な200mで20秒16のフランス新記録を樹立した。南アワールドカップでのフランス・サッカー内部崩壊の暗いニュースを一掃する快挙だった。フランス国内でサブ「10」は大騒ぎしだが、外国では相手にもされまい。

ルメートレは、ジュニア世界、欧州ジュニア選手権200mで優勝。数年前から国内で注目されてきた選手。長身選手のためか、スタートが遅く身体を少し横に振る走りに特徴がある。が、後半の強さは抜群だ。欧州選手権前、「ぼくにも勝つチャンスがあるが、経験豊かなドゥワイト・チェンバース(イギリス)が有利だ」と控えめだった。予選を10秒19、準決勝を10秒06の最速タイムで決勝進出を決めた。ルメートレは、「調子は良い。決勝はだれが勝ってもおかしくない接戦になる」とクールに分析。しかし、期待への重圧か、決勝スタートのリアクションは0.224と最悪。ゴール手前で横一線に並び、ゴールの瞬間に深くディップして辛うじて優勝。タイムは10秒11と平凡。2位以下5位のチェンバースまで10秒18で同タイムの激選だった。

「緊張してスタートが悪かった。でも、慌てることなく中盤からスピードに乗ることができた。胸の差で勝ったが、記録よりも優勝がすべて。夢が現実になって、今夜はホントに嬉しい!最も期待された種目で優勝してホッとした。自信にもなるし、重圧から少しは解放されて気楽になれる。できることなら200m、4x100mの3種目に優勝したいね」と、口調も滑らかになった。かれの舌の根も乾かない間に、スプリント3冠王になった。

モハメド・ファラー、長距離2冠を制す

大会の初日、ソマリア生まれのモハメド・ファラー(イギリス、27歳)が男子10000mを28分24秒99で圧勝。イギリス選手で初めてこの種目優勝、2位にクリス・トンプソン(28歳)が入り上位独占。前大会ファラーは、5000mに出場して2位に終わった。「この4年間、この勝利の瞬間を夢見て生活のすべてを練習に集中してきた結果だ。レースはきつかった。クリスが先頭を走り、他の選手を振り切る作戦をとった。われわれは良いチームワークで1,2位を独占。最高の結果を出した」

大会3日目、5000m予選2組に出場。13分38秒26で1位通過。決勝レースは大会5日目。かなり厳しいスケジュールながら、ファラーは完璧に自分のペースを貫徹した。2周を残してそれまで先頭をきっていながらイェスズ・エスパーナ(スペイン)が地元の声援をバックに先頭に飛び出した。ファラーは慌てず、余裕な走りで背後に付く。残り150mでファラーがスパート。たちまち大きなギャップを作って感極まり泣きながら両手を広げてゴール。13分31秒18で2冠を達成。「レース中、ひざを心配、勝つのは難しいと思ったが、勝って最高の気分だ」と大喜び。

奇跡的な大ジャンプ

クリスチャン・ライフ(ドイツ、26歳)本人自身でさえも、まさか決勝で自己記録8.27mを大幅に破る自己新記録、大会新記録、今季世界最高記録8.47mをジャンプするとは予測がつかなかっただろう。ライフは奇妙なことに予選と決勝で同じような跳躍状況だった。予選で初回をファウル、2回目の跳躍を7.79m、3回目で8.27mの今季欧州最高記録を跳んで1位通過。決勝ラウンドでも初回をファウル、2回目が7.87m、3回目に優勝を決定する8.47mを跳んでトラック上で狂喜。4,5回をパス、6回目は8.00mを記録して競技を終えた。

「予選を終了して、ぼくとスペイン選手の2人が8.27mトップ通過。この結果、決勝でメダル獲得が頭に浮かんだ。しかし、1,2回目のジャンプが良くなかったので、3日目にしっかり跳ばないとベスト8は難しかった。少し緊張したがそれだけに集中力も高まったのが「ゴールデン」ジャンプを生んだ。今大会は予想以上に8mジャンプが続出して厳しかった。調子は良かったが…、まさか今季世界最高記録で優勝するとは思わなかった。ぼくはまだ若いので記録は伸びると思う」と結んだ。

ロンドン五輪希望の星、無敵のエニス!

ジェシカ・エニス(24歳)は、イギリスでもっとも愛されるスーパースター選手。最初の得意な100mhから、北京五輪優勝者のナタリヤ・ドブリンスカ(ウクライナ、28歳)らに一度もリードを許さず、あのカロライナ・クリュフト(スエーデン)の持つ6740点を破る大会新記録6823点を獲得して優勝。ジェシー「スマイル」を見せた。「昨シーズンは世界選手権に優勝するなど、最も充実したシーズンだったが、今季も同じような素晴らしい結果を残すことができた。この種目の欧州選手権は、世界のトップ選手が集結するので、とてもハードな大会でした。あと8点でイギリス新記録を更新できたことはわかっていました。もう少しで届かなかったのは残念ですが、今回は勝つことが重要です。今大会のハイライトは、苦手なやり投げで自己記録を46.71mと伸ばし、走り幅跳びは6.43m、最後の800mで2分10秒18を記録して勝利をものにしたこと。これがわたしが現在世界ナンバーワンであることの証です」と言って早々にバカンス。

一方、2位に終わったドブリンスカは、「2位以下の順位が種目ごとにめまぐるしく変わるほど実力差が接近してきた。わたしも大会ごとに良い経験をしてきた。種目によってまだ伸びしろがある」とエニスにチャレンジ宣言を宣告した。

女子ハンマー投げ、ハイドラー激戦を制す

女子ハンマー投げは歴史が浅く、今回で4回目だ。6月にアニタ・ヴォダルチク(ポーランド、25歳)が78.30mの世界記録をマーク。今大会で数少ない世界記録更新を期待された種目だが、不調で73.56mを記録して3位にとどまった。

昨年、地元のベルリン世界選手権で2位に甘んじたベティ・ハイドラー(ドイツ、26歳)が予選を1投目で71.85mを投げて通過。決勝で2投目に75.92mを投げてトップに躍り出た。2位になったタチヤナ・リセンコ(ロシア、27歳)が4投目に75.65mを投げて接近したが、ハイドラーが5投目に今季自己最高記録の76.38mを投げて突き放して優勝。世界新記録を期待されたヴォダルチクは、70m台をコンスタントに投げたが、記録が伸びず73.56mに終わった。ハイドラーは、「勝ったのはうれしいが試合中、なぜか競技に集中できなかった。4投目に勝ったと思った。記録的にはあんなもの」と淡々としていた。

一方2位になったリセンコは、「勝つために出場したのに、2連勝できなかったのが情けない!」と自分に怒っていた。また、3位のヴォルダチクは、「参加を最後まで迷っていた。参加できただけでも素晴らしいこと。表彰台に上がれたことには満足している。競技中、前向きだったが、今夜は技術的になっていなかった」と、世界トップ3のコメントが印象的だ。

ヨアン・ディニズ、見事に復活、大会2連勝を果たす

レースは7時25分開始。公式発表の気象状況は、スタート時気温は23度、湿度87%。レース終了時の気温は25度、湿度65%。27選手が出場、完走15名。約50%の選手がドロップアウトした厳しい状況だった。4年前、ディニズはヨエテボリ大会で初優勝、大阪世界選手権で2位になったが北京五輪ではメダルに届かず、その後目立った活躍を見せなかったが今大会で見事にカムバック。今季世界最高記録の3時間40分37秒で優勝、2連勝を達成した。これまで山崎が4月18日に出した今季世界最高記録3時間46分56秒を大きく上回った。ディニズは5kmを22分12秒で単独で通過。その後、独走態勢で一度も首位を譲ることなく、途中足のもつれで転倒したにもかかわらず、2位を2分近く離す完璧な走りで優勝。

「大会2連勝して最高の気分。レースの序盤からこのレースはおれのものだと思った。ピレネーのフォン・ロミューで6週間の高地合宿を消化。自然の恵みを受けて調子も良かったので勝てると思った。」

トルキルドセン抜群の勝負強さで、大会2連勝を果たす

天才的な勝負強さを持つアンドレアス・トルキルドセン(ノルウェー、28歳)は、予選でもたついた。1,2投目を投げたが記録が思うように伸びない。3投目でやっと78.82mを投げて4位予選通過。かれが予選を終えてミックスゾーンで目が合った時、笑いながらピストルで頭を打つジェスチャー(駄目だったしぐさ)をした。一瞬、「予選通過できなかった!」と錯覚した。結果をみると難なく決勝進出 できていたが、いつもより記録が悪かった。しかし、翌日の決勝で久しぶりに大奮闘した。第1回目の試技4番目に投げたマティアス・デゾルド(ドイツ、22歳)が自己記録を大幅に更新する84.38mを決めた。この1投は競技全体に大きな影響を与えた。10番目に登場したトルキルドセンは、「彼の記録で燃えたね」と、この若手の快投に応えて王者の存在を見せた86.32m投げてプレッシャーを掛けた。2回目、好調の波に乗ったデゾルドが再び自己新記録を大幅に伸ばす87.81mを飛ばし、真っ向からトルキルドセンに挑戦してきた。これを正面から受けたトルキルドセンの2投目は、再びデゾルドを超える88.37mを決めて勝敗を決めた。トルキルドセンの的確で強烈にレスポンスできる実力と勝負強さが凄い。トルキルドセンは、「タフな試合だった!ライヴァルは強かった。勝つためにはあそこでデゾルドの記録以上に投げて応えなければ勝てない」と不敵に笑った。

一方、デゾルドは、「試合は最高だった。こんな素晴らしい結果は夢にも思わなかった。自己記録を4m半も更新できた。しかし、トルキルドセンの実力には敵わない!かれを少しだけでも驚かしたのは満足だ」と。

女子20km競歩、カニスキナ史上最強選手か

女子20km競歩は、男子と同じ市内のピカソ公園前をスタート、コロンバスタワーを周回する特設コース。大会2日目の8時05分にスタート。この種目の第一人者のオルガ・カニスキナ(ロシア、25歳)が1時間27分44秒で優勝。カニスキナはこの種目で北京五輪、大阪、ベルリン世界選手権に優勝。今回欧州選手権の3大会を制した初の選手となった。また、このレースは3位までをロシア勢が独占。女子20km競歩での1〜3位独占もヨーロッパ選手権史上初の快挙だった。カニスキナが6km手前でトップに立ち、そのまま独歩してゴール。カニスキナは、「バルセロナで勝ってファンタスティックなフィーリングだ。一緒にハード練習している仲間で表彰台に上がれるなんて素晴らしいこと。レースのスタート直後は不安だったが、すぐにいつもの調子で歩くことができた」、2位のアニシャ・キルダプキナ(ロシア、21歳)は、「オルガは強いので、2位で十分です。周回コースは歩きやすかった。気候はロシアと比べると、ここの方が楽ですね」また、3位のフェラ・ソコロファ(ロシア、29歳)は、「練習仲間の3人が上位独占するなんて!レースはチーム作戦をとった。暑さ?とんでもないロシアの方が暑いですよ」と笑っていた。

フィロアらロシア勢、上位独占

予想通り、女子400m決勝でロシア勢が上位を独占した。3コースにアントニナ・クリフォシャプカ(23歳、PB49秒29)、4コースはクセニヤ・ウスタロファ(22歳、PB50秒33)、5コースに大柄なタチヤナ・フィロファ(28歳、50秒08)らの3選手らが互いに譲らず、ほぼゴールまで横一線に並んでなだれ込んできた。僅差でフィロファが、初めてサブ50の壁を破る49秒89の自己新記録、今季欧州最高記録で圧勝した。3選手は国旗を背に仲良くウィニングラン。

フィロファは、「ロシア選手全員が表彰台に上がることは素晴らしい。今シーズンわたしたちは、最高の結果を出すことができた。次回の世界選手権、ロンドン五輪でも同じような状態をキープして良い結果を出して行きたい」と早くも先を見据えていた。

2位のクセニヤ・ウスタロファ(22歳)は、「予選の走りが良かったので、多くの人たちがわたしを優勝候補筆頭に上げていた。しかし、決勝レースは全く別物。なにが起きるか予測が難しい。49秒92は自己新記録。悪くはないでしょ」とほほ笑んだ。

出場選手中、持ちタイムが最高だったが3位のアントニナ・クリフォシャプカ(23歳)「冬季に健康状態が悪くてまともに練習ができなかった。今日はなんのメダルでも、獲得できたことが素晴らしい。」と。

男女1500m地元勢のお家芸で圧勝

あのバルセロナ五輪男子1500m決勝で、フェルミン・カチョ(スペイン)に微笑んだ勝利の神がモンジュイックの丘に存在する言い伝えがあるらしい。今大会でそれが2度にわたって証明された。男子1500mでアルツロ・カサド(27歳)が巧妙なタクティカルレースを制し、3位、4位にスペイン勢が食い込んだ。カサドは、「優勝したことが信じられない。これまで何度も入賞したが、待望の優勝がそれも地元できた。」優勝タイムは、平凡な3分42秒74だったが、3万人の観衆は記録よりスペイン待望の初優勝に狂喜した。かれらの表彰式に、かなり身体が丸くなったバルセロナ五輪の英雄カチョが登場。若い世代への伝統のメダル授与セレモニーが行われると、観衆からカチョコールが起きた。その2日後、大会終焉を女子1500m決勝優勝で飾った演出が心憎い。今季世界最高記録3分57秒56の持ちタイムのアナ・アルミノファ(ロシア、25歳)らが絶好調で予選通過。虎視眈々と優勝狙いの走りをするだろうと予想された。が、ここでもモンジュイックの勝利の女神が、これまでタイトルに無縁の33歳のヌリア・フェルナンディスに微笑み、最後の50mでスパートを掛けて劇的な優勝を飾った。タイムは自己記録を2秒以上短縮した新記録の4分00秒20だった。フェルナンディスは、「優勝したなんて!うれし涙が止まらない。15年間のキャリアで、33歳になって生涯初のビッグタイトル!一度は優勝を夢見ていたのが、地元で欧州選手権に優勝するなんてとても信じられないわ。夢が現実になった!」と。モンジュイックの勝利の「女神」は粋なはからいをした。

弱冠19歳の競歩選手優勝

スタニスラフ・エメリャノフ(ロシア、19歳)が、アレックス・シュワルツアー(イタリア、26歳)、ヴェテランのジョアオ・ヴィエイラ(ポルトガル、34歳)らを抑えて、1時間20分10秒で優勝。エメリャノフ、2位になったシュワルツアーらがスタートから先頭集団でレースを引っ張ったが、約8km手前からエメリャノフが飛び出して独走態勢、そのまま一度もトップを譲ることなくゴール。エメリャノフは、「今年のロシアはここより暑い。むしろバルセロナの方が快適。コースは平たんで早かったのでぼく好み」と、優勝にも淡々としていた。

オッティ、50歳のスプリンター活躍

スロベニア女子100m代表、自己記録11秒48のティナ・ムールン(27歳)が、予選1組に出場。11秒77の今季最高記録で走り6位で予選通過ならず。要するに、単独のスロベニア女子スプリンターの実力はそれほどでもない。ところが、スロベニア4x100mチームが注目を浴びたのは、元ジャマイカ国籍のマリーン・オッティが今年で50歳を迎えてアンカーを走ったからだ。予選を44秒30で走り、イタリアに次いで13位。決勝進出ならず。それでも1980年モスクワ五輪出場経験のある息の長い今年50歳を迎えたオッティが現役だった。オッティは、「健康で競技が続けられる以上、若い人たちと一緒に走り続けたい」と笑顔で応えた。

イドウ貫禄の自己新記録で初優勝

欧州選手権の新旧対決の目玉商品は、ベルリン世界選手権の覇者フィリップ・イドウ(イギリス、32歳)対テディ・タムゴ(フランス、21歳)の新旧対決だった。タムゴは世界室内選手権で同世界新記録を樹立して優勝。今季屋外でも好調。NYダイヤモンドリーグで史上3位の17.98mを跳んでいる。イドウは予選を1回目の跳躍で17.10m、タムゴは1回目をファウル、2回目に17.37mを跳んで両者ともに軽く予選通過した。決勝戦で両者のキャリア差が歴然とジャンプに影響した。イドウはマイペースで最初の3回のジャンプを17.46m、47,40とコンスタントに跳んだが、タムゴは初回から硬くなり、力んだ助走から17.12m、42、ファウルと不安定だった。難なくベスト8に残ったものの、イドウは4回目に17.81の自己新記録を更新、タムゴに無言のプレッシャーを掛けた。その後の跳躍はパスしてタムゴを見守る余裕を見せた。追う立場になったタムゴは、むやみな助走でリズムを失い、緊張して自滅。記録が全く伸びない。焦れば焦るほど自滅に陥りやすいタイプ。4回目にファウル、次に17.45m、最終回に17.34mに終わり万事休す。その間、マリアン・オプレア(ルーマニア、28歳)が、17.51mを跳んで2位。タムゴは3位に転落した。

イドウは、「自己新記録を出しての優勝はファンタスティックだ!選手権に向けての調整は良くなかったが、ジャンプはコンスタントに記録が出た。これで世界選手権、欧州選手権は獲得したが、残るは大きなやつだけ」とターゲットは早くもロンドン五輪に向けられた。一方、イドウとの直接対決に敗れ3位に転落したタムゴは、「今日のパーフォーマンスは不満足だ。身体の調整は良かったが、メンタルに弱点が出た。フィリップ、マリアンを祝福したい」と結んだ。

猛暑に強いロスリン、大差で優勝

男女マラソンは10時5分スタート。カメラ機材を持ち歩くだけで、汗がダラダラ出る暑さだ。周回約10kmを4周するコース。スローペースで始まったレースは、ハーフをジェームス・テウリ(フランス)、あの大阪世界選手権3位のヴィクトル・ロスリン(スイス)の2人が67分43秒で通過。すぐ後にロシア、イタリア、スペインらの10選手が続く。28kmでロスリンが飛び出し、30kmを1時間35分58秒で通過。2位の集団に約10秒差。35kmでロスリンと2位の差は1分のギャップ。ほぼロスリンの優勝は決定した。40kmで約2分差の大差をつけて、そのままゴール。2位に地元のホセ・マニュエル・マルティネス、3位にディミトリー・サフロノファ(ロシア)らが続いた。

ロスリンは、「今回のマラソンは19回目。今後のレースは予定にないが、一つ言えることは、『俺はカムバックした!』レース中、完走は考えず、ただ前に走った。暑い中で走ることは好きだ。大阪と比較すると、むしろここは寒いぐらいだった」と誇らしげだった。

大会総括

だれが言ったか知る由もないが、スポーツは「代理戦争」とはよく言ったもの。欧州陸上競技選手権大会の多くの出場国はECに属しているものの、この時ばかりは伝統の国家意識、ライヴァル意識を猛烈に感情に表す。どこの国もいつものことだが、各国のメディアは自国選手の活躍にスポットを当て国民感情を扇動。勝っても負けても焦点は自国選手に向ける。あの92年バルセロナ五輪男子1500mで劇的な優勝を地元にもたらしたフェルミン・カチョのゴールシーンを彷彿させた。男女1500m優勝者のアルツール・カサド、ヌリア・フェルナンデらの走りは、ワールドカップ優勝の熱狂がいまだに冷めないスペインを再び熱くした。クリストファ・ルメートレらの活躍は、欧州スプリンターの救世主となるか。今後に期待したい。最強国のロシアは、ロンドン五輪、3年後のモスクワ世界選手権を目標に長期的な選手強化に力を入れている結果だと言う。特に、ロシア女子選手の活躍は、400mで1、2,3位を独占、800m、400mh、3000msp、4x400m、20km競歩で圧勝。他を寄せ付けない強さの存在を印象付けた。また、イスラム国家のトルコが女子金メダル3、銀1個を獲得。ランキング5位の躍進は特筆される。大会新記録7、タイ記録1、今季世界最高記録5個を記録して大会の幕を閉じた。なお、欧州選手権大会はこれまでの4年毎の開催から隔年ごとに変更され、次回開催地はヘルシンキ、続く2014年はチューリッヒに決定された。

 
(10年月刊陸上競技9月号掲載)
(望月次朗)

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