shot
 
NEWS
 

史上初9秒台の非黒人スプリンター、クリストファ・ルメートレ

6月の半ばから1カ月、世界中がサッカーワールドカップ一色に塗りつぶされていた。フランスは4年前2位の実績を誇る強豪国にもかかわらず、前代未聞の選手と監督の不和で内部崩壊。3試合無得点で不名誉な予選敗退をした。国会でもこのことが問題に議論された。そんな国内の暗いムードを一掃したのが、フランス選手権で男子100,200mを優勝したクリストファ・ルメートレ(20歳)だった。7月9日、バランスで開催されたフランス選手権100mで9秒98(これまでの記録は05年ロナルド・ポ二ヨンの9秒99)をマーク、念願の史上初の白人選手の「10秒の壁を突破」を果たした。気温32度、追い風1.3mと絶好のコンディション。好スタートを切って30m付近からトップに立ち、後半さらに加速を加えて念願の記録を達成した。かれは余勢を駆って200mでも自己の記録20秒68を大きく破る20秒18のフランス新記録で2冠を達成した。

「やっと壁を破ることができた。歴史的な日になったが、この記録はあくまでも通過点に過ぎない。」これまで非黒人スプリンター初の9秒台は、現日本記録の伊藤浩二が98年バンコック・アジア大会で樹立した10秒00を破った記録。ルメートレの記録は黒人選手と比較すると笑止千万な遅い記録だが、「白人最速スプリンター」というニュースが世界中に飛び、フランス国内では大騒ぎの快挙だった。もちろん、日本メディアからもかなりの注目を浴びた。しかし、ピエール・カラッツは、「記録は出たが彼の走りはとても褒められたものではない。ストライドが大きく、リズムが死んでいる。欧州選手権までに調整が必要だ」と手厳しかった。

ルメートレはスレンダーで身長190cm、体重80kmと100m世界記録保持者のウサイン・ボルト並の大型選手。2年前のジュニア世界選手権200mで優勝。一躍、黒人選手が独占する国内スプリント界で、フランス希望の「星」になった。昨季、順調に成長して100mで10秒04のジュニア欧州記録を樹立したが、ベルリン世界選手権準決勝は極度のプレッシャーの中でフライングを犯して失格。手痛い世界の洗礼を浴びて成長してきた。今季、屋外シーズンを絶好調で開幕。この日まで10秒0台が5回記録され、歴史的なサブ10は時間の問題と期待されてきた。国内で走るごとに「白人スプリンター初のサブ10秒なるか!」と、再び強烈なプレッシャーを掛けられてメディアの注目を一身に集めた。これまで黒人以外では、98年バンコック・アジア大会で伊藤浩二が出した10秒00の日本記録がある。

ルメートレは、200mでも20秒16のフランス新記録で優勝。欧州選手権に向けての抱負を「100,200m、4x100mで欧州選手権に向けて自信がついたが、ライバルのドゥワイト・チェンバースが有利になるだろうか」と語った。

 
(10年月刊陸上競技9月号掲載)
(望月次朗)

Copyright (C) 2005 Agence SHOT All Rights Reserved. CONTACT