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コンチネンタル杯、欧州勢の優勝、アジア・パシフィック最下位

燃えた地元の英雄ブランカ・ブラシッチ、今季世界最高記録で優勝

4年に一度開催される大陸別で行われる、第11回コンチネンタルカップ(旧ワールドカップ大会)が、9月4−5日アドリア海岸の古代ギリシャの港町として発祥、古代ローマの交易港として栄えた世界遺産のスプリット市で開催された。クロアチアスポーツ界の至宝、女子走り高跳びのブランカ・ブラシッチ(26歳)の出身地。4年に一度の開催、アメリカ主力選手の不参加、ルールが頻繁に変るなど、なじみが薄くなってきた。通常の選手権と異なり個人種目別優勝者以外に、欧州、アメリカ、アフリカ、アジア―太平洋の4大陸対抗のポイント争いに焦点が置かれているのが特徴だ。長距離を除く各種目に、各大陸2選手の出場。地元選手のブラシッチ、欧州選手権優勝した女子円盤投げのサンドラ・ペルコヴィッチ(20歳)らが大会を熱狂的に盛り上げた。参加資格、賞金など、大会の要綱はhttp://www.iaaf.org/wcp10/news/newsid=56589.htmlに詳しく掲載されている。

日本スプリンター、男子4x100mは新メンバーで2位、男子200m、藤光、復調の兆しか

藤光謙司(セーレン)は、前の5コースのワーラス・スペアモン(アメリカ)を追って20秒80で5位。「レースは内容的には結構イイ感じで秋につながる走りができたかと思います。5コースのスペアモンは、前半を少し余裕をもって入り、後半にスピードを上げるのかと思ったのですが、19秒台の走りは前半から行かなければ勝負できないことがはっきりわかりました。体力作り、これからは、100mのベストが10秒4台ですから100mの記録アップの努力をしなければなりません。そうすることによって200mへの結び付けが必要ですね」と調子を取り戻しつつある。

男子4x100mは、高平、塚原、藤光、木村の新メンバー、新オーダーで臨んだ。スプリット前、塚原、高平らはザグレブ大会のBレースに出場。予想外の寒い向い風の中、塚原が軽い足の付け根の故障で10秒64の2位、高平は10秒71で3位。本調子とはほど遠いコンディション。優勝したアメリカは3走にタイソン・ゲイも走り、38秒25で圧勝。2位の日本チームは39秒28.高平は、「この記録は前回アテネ(注:38秒58で3位)の時より1秒近くも遅い!」と苦笑したが、「バトンタッチもスムースに行かなかった」と言うように、慣れない新メンバーの問題もあった。男子400mの金丸祐三(大塚製薬)は45秒95で7位だった。

福島千里(北海道ハイテックAC)は、追い風1.4mの絶好のコンディションながら11秒42で6位だった。「いつも期待されても・・・」と、数人の日本からの取材者に囲まれての開口一番だった。走るたびに期待される重圧感だろうか、かすかな拒絶反応を示した。近年、福島を筆頭に女子スプリンターの実績、活躍が注目されるようになったからだろう、陸連主催の女子短距離陣が、長期的な視野から欧州競技会に2度の遠征を行った。欧州の夏場では、色々な競技会に力量に応じて出場できる。福島、高橋らは、2回目の欧州遠征はイタリアのロヴェレト国際に出場、スプリットに来る前にレースで調整してきた。しかし、向かい風3.3mの中、11秒65でB組1位。スプリットは好天に恵まれたが、欧州選手権優勝者のウェレナ・ゼイラー(ドイツ、25歳)と隣り合わせ。福島はスタートこそ良かったが、中盤から急激に加速するアメリカ、欧米選手に大きく遅れて11秒42で6位に終わった。上位選手は国際大会の常連の選手ばかり。「欧州遠征、コンチネンタル大会の経験を生かして、アジア大会に向けて頑張ります」と。

一方、高橋萌木子(平成国際大)は、女子200mは24秒27で最下位の惨敗だった。それでも高橋は「福島さんの活躍、存在が大きく、影響、刺激され、追いつくことに欲を出したことで、いろんなことに目移りし、やり過ぎてペースを失ったようなところがあるかもしれません。どん底から抜け出して少しずつ良くなったと思います。細かいことは気にしないでマイペースで、アジア大会に向けて少しずつ調整します」と積極的思考を見せた。

女子100mハードルに出場した寺田明日香(北海道ハイッテクAC)は、13秒67で最下位。7台目でハードルに腿をこすって、バランスを失った。ハードルに当たっても負けないようにならなければ・・・」

同じく3000m障害に出場した早狩実紀(京都光華)は、10分4秒97で最下位に終わった。

スプリットの飛行場内で、前夜、話を訊くことができなかった苅部男子スプリント強化部長と話す機会に恵まれた。

「男子4x100mでは通常のタイムより1秒は遅れたが、新メンバー、2,3走のバトンタッチがうまくいかなかったので、あれが上手く行けば38秒台だったでしょう。男子はかなり前から欧州遠征の経験がありますが、女子選手の場合、今年が本格的な欧州遠征を始めたばかりです。国内のようにすべてが非常にコンディションの整った良い環境のところで『どうぞ走ってください』とお膳立てができた所と違う環境です。移動、食事、練習、会場など、いろんな経験のないところでやらなければならない。不慣れな生活で精神、肉体的にも疲労するようなことばかりでしょう。さまざまなことを乗り越えないと国際的にはなかなか通用しないので、この体験は大きな前進です。アジア大会を軽視しているのではありません。アジア大会はJOC管轄ですから結果はそのままロンドン五輪に影響されます。そういう意味でも重要なアジア大会前ではありましたが、欧州遠征を経験できるチャンスは今年だけ。今後、リレーメンバーは、来年の世界選手権、五輪に向けて、なるべく選手を固定して行く方針です」

大会ハイライトを紹介しよう。

スプリットでもっとも有名なブランカ・ブラシッチ。1.88mからスタート。観客の最前列の席に陣取った両親を始め、熱狂する3万人の地鳴りのような声援を受けて2.05mまで一発でクリアー。この瞬間、ブラシッチが吠え、観衆は歓喜の頂点に達した。2.10mの世界新記録にバーを上げたが失敗。目を真っ赤にしながらウィニングラン。今季のブラシッチは、欧州選手権、DL女子走り高跳び年間優勝したが、決して切れのあるジャンプが見られなかった。しかし、ザグレブでやっと切れある踏み切れのカンを取り戻した。コーチが「スプリットは楽しみだ!」と断言したように、地元で今季世界最高記録を達成した。ブラシッチは「最高の舞台で世界新記録こそ達成できなかったが、最高のジャンプを地元で見せて、明日引退しても悔いを残すことがない」と、泣きながら観衆に応えていた。

女子三段跳びのオルガ・リュパコワ(カザフスタン)が1回目の跳躍で15.25mの歴代6位の好記録で圧勝。これはアジア新記録、今季世界最高記録。「調子は良かったが、まさかこんな記録は予想していなかった」2日目には走り幅跳びに出場、6.40mを跳んで4位だった。「大会が終わってからは地中海で泳ぎたい」

女子円盤投げで、ヤンフェン・リー(中国)が、3回目に63.79mを投げて、今季急成長した欧州選手権優勝したサンドラ・ペルコヴィッチ(クロアチア)を破って優勝。

また、女子砲丸投げのヴィリ・アダムス(NZ)が1投目に20.86mの今季自己最高記録を出して、ナゼヤ・オスタプチュク(ベラルーシ)を破り今季初勝利。スイスの怪物歴代5位の記録を持つ「ベルナー・ギュンター(スイス)指導に感謝したい。最後の試合に一矢報いた」とジャンプして大喜び。

男子棒高跳びで、今季は不調が激しかったスティーヴン・フーカー(オーストラリア)が、最後のジャンプで5.95m、今季世界最高記録を3回目でクリアー、久々に復活の兆候を見せて、ライバルのレノード・ラヴィレニエ(フランス)を逆転して優勝した。フーカーはこう語った。「今季室内、コンティネンタルカップ、大英連邦の3大会優勝が目標だった。目標が散漫になったのが不振の原因だった。まだ完全にベストの状態ではないが、これをきっかけに本来の調子が戻り大英連邦大会でも優勝したい」

 
(2010年月刊陸上競技10月号掲載)
(望月次朗)

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