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エマニュエル・キプチルチル・ムタイ

:1984年10月12日 リフトヴァレー州 ウアシン・ギシュ地方 チェプティギット村出身
:部族、カレンジン
:身長173p、体重55s
:6人兄弟の長男(男4人、女2人)
:既婚、子供2人。
:キャンプ地(リチャード・リモから借用)、カプタガット、エルドレット郊外にある。
:コーチ、バルセロナ3000m障害銀メダリスト パトリック・キプサング
:マネージャー、ミシェル・ボエティング(オランダ)









子供のころからの夢、五輪出場を狙う

エマニュエル・ムタイは、「トラックはオレの走法にフィットしない」と判断して、10代からロードレースに転向。2009年ベルリン世界選手マラソン2位、2010年ロンドン、同年NYでも2位と苦渋を飲まされ続けたが、2011年ロンドンで並みいる強豪を抑えて2時間04分40秒の自己、コース新記録で主要レース初優勝を果たした。ムタイは、「過去2年間勝利に見放されていたが、やっと運が向いて、ロンドンで勝つことができてとても嬉しい。子供の頃、近所でイスマエル・キルイ、ベルナード・バルマサイ、リチャード・チェリモ、マシュー・ビルらの世界的な選手が練習しているのを見かけた。みんな眩しいほど格好良く、羨望の的だった。オレもいつかは彼らのようになりたいと夢を膨らませたものだ。当時、オレは学業か陸上競技のどちらを選択するか迷っていたが、最終的に世界的なランナーになるポテンシャルがあると思い陸上を選んだ。あの頃の夢が叶って本当に嬉しい。ロンドンの優勝がオレに自信をもたらし、人生のターニングポイントにもなった。」と言う。続くNYで2位。5大メジャーマラソン「10−11年間最優秀選手」に輝いた。これまで4人のケニア選手が賞金50万ドルを獲得。(注:NYの高い税金、マネージャーの取り分15%を差し引くと、選手の実収は15%にも満たなくなるとか)しかし、賞金をもらったからと言って、大きな車や高価な洋服、宝石などを購入することはない。オレにもやがて引退の日が来るだろうから、派手に金をばらまいて使ってしまうようなことは避けなければならない。ポール・テルガトはオレのアイドルであり、尊敬する先輩だ。彼を見習い、賞金をうまく活用して引退後に備えなければならない。昨年は、これまでのキャリアで最高の実績をあげた。1月に発表されたケニア五輪代表候補6選手にも抜擢され、ロンドン2連覇を果たして五輪代表を目指す」

12月初旬、ムタイは五輪出場権を得るため、4月のロンドンマラソンに向けて早くも始動した。「今年の目標は五輪出場だが、その前にロンドン連覇が掛かっている。このレース結果が、今年の世界マラソンの動きを大きく左右すると言えるだろう。オレを含めケニア五輪代表候補の4選手、マカウ、キルイ、キプサングも目の色を変えて走るはずだ。エチオピア勢らも五輪代表の座を必死で狙ってくるのが目に見えている。当然五輪よりはるかに厳しいレースになることは予想できる。しかも好記録で勝たなければ五輪出場はあり得ないからきついよね。これまで経験したことがないレースになるだろう。好記録で優勝すれば自ずと五輪代表の道は開く。条件は皆同じだからベストを尽くしてチャンスをものにしたいね。」

「もし代表に落ちたら…レースは運もあるだろう…、そんな消極的な考えはしていない。ロンドンに向けてこれまでより長い調整期間で周到な準備をしている。みんな同じ考えだろうが、五輪は4年に1度のチャンス。結果はどうであれ、悔いの残ることがない準備だけはしておこうと思う。」

「昨年の急激な記録の進歩で、タイムへの概念は一変した。同じ国籍の身近なランナーが世界記録を更新したという事実は、僕らにもできる可能性が十分にあることを証明してくれた。3分台の心理的な壁は取り除かれ、2分台が目前に迫ってきた。世界記録はどこまで伸びるかわからないが、2分台は時間の問題。2時間の壁を破ることも、そう遠くない未来に待っているかもしれない。今春か秋に、五輪代表から外れたランナーがプライドを賭けての挑戦するレースから

新記録が生まれるのではないか、そんな雰囲気がケニア中に広まっている。それが唯一、五輪から漏れたランナーのリベンジだよ。それがオレかもしれない。怖いもの知らずの若手が飛び出す可能性もあるね。これまで長い間ハイレ、ケネニサ・ベケレらエチオピア勢に、5000mからマラソンまでことごとくケニア勢がカモにされてきた反動から、ケニア勢の手に戻った世界記録の強烈なインパクトは、久しぶりに束縛されない自由を感じさせるはずだ。」

「五輪優勝予想は、ケニア選手の優勝、欲を言えばメダル独占だよ。積極的な高速レース展開になれば、実力があるだけにケニア勢が有利だろう。または、大レース特有なタクティカルなレースになるだろうか。実力があるので周到な準備をすれば、勝利は自然についてくる。あとは運を天に任せることだ。通常、練習プログラムは独自のものを作る。我々のグループを見てくれるのはバルセロナ五輪3000m障害で2位だったパトリック・サングだが、彼はマラソン経験がない。そこで自身のマラソン経験からヒントを得たり、友達にアドヴァイスを求めたり、多くの情報の中から自分に合った練習プログラムを作成するんだ。今後もこれを変える予定はない。」

「マラソンは難しいレースだ。距離が長いだけにレース中に何が起こるか予測ができない。しかし、またそこがおもしろい。ロンドン主催者は奇抜なことをするものだ。1月に前回優勝者のオレとキルイ、マカウ、キプサングをイテンホテルに呼んで、記者会見を行い世界に発信した。また、エルドレット市内の長い壁に過去ロンドンに優勝したケニアランナーの男女ポートレートを描いた。最初の絵はダグラス・ワキウリで最後の絵はオレの肖像画だった。でもあまりオレに似ていないんだよね。」

 
(2012年月刊陸上競技4月号掲載)
(望月次朗)

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