国際陸連(IAAF)ダイヤモンドリーグが5月3日、秋に世界選手権開催を控えるカタールの首都ドーハで開幕。早速、8種目で今季世界最高記録が誕生した。この中で特に優れたものを挙げてみよう。
まず、男子800mで完全復帰を見せたナイジェル・アモス(ボツワナ)だ。2012年ロンドン五輪に18歳の若さで銀メダルに輝いた逸材が、後半の強さを発揮。先行するエマニュエル・コリル(ケニア)を強烈なスパートで追い上げ、フィニッシュライン手前で逆転、1分44秒29の今季世界最高記録で優勝した。
男子1500mは世界記録に最も近い男と言われる2017年ロンドン世界選手権王者、エリジャ・マナンゴイ(ケニア)が、練習パートナーのティモシー・チェルイヨット(同)を抑え、3分32秒21で制覇。この2人は故障でもない限り、世界選手権の金メダル争いを演じるだろう。
ケニアが圧倒的な強さを誇る男子3000m障害では、その牙城を脅かすスフィアン・エル・バカリ(モロッコ)が、ヒラリー・ボー(米国)、レオナルド・ベット(ケニア)をスプリント争いで制し、今季世界最高記録の8分07秒22で快勝。左右に投げキスをして余裕のフィニッシュ。ロンドン世界選手権の銀メダリストは果たして、同じアラブの国、カタールで開かれる世界選手権でもこのポーズを見せることができるだろうか。
男子円盤投で70mオーバーは超一流選手の証だろうが、この日のダニエル・ストール(スウェーデン)は、1投目から69m63の好記録。その後も70m49、70m56、69m54、69m50、70m32と全試技で69m50以上を記録する、後世に名を残す豪腕を見せた。ストールは、「冬季練習で重点的にテクニックを磨いてきたことが実を結んだ。今日の結果はある程度の予想ができたことなので、それほど驚かない」と、淡々と振り返った。
男子砲丸投ではライアン・クルーザー(米国)が2投目に22m13をマークし、2位のトーマス・ウォルシュ(ニュージーランド)に7cm差で勝利。彼は「欧州旅行にかなり慣れたが、欧州からさらに6時間、合計20時間の長旅は疲れた。世界選手権の経験のために来たのは良かった」と話した。
男子棒高跳では山本聖途(トヨタ自動車)が4月後半のアジア選手権に出場(5m51で7位)後に一時帰国し、今大会にとんぼ返りして出場。試合前に「リベンジしますよ!」と宣言した。その言葉通り、アジア選手権で優勝したアーネスト・ジョン・オビエナ(フィリピン)を抑え、5m61をクリアして3位に食い込んだ。優勝はただ1人5m80に成功したロンドン世界選手権覇者のサム・ケンドリクス(米国)だった。
女子200mのディナ・アッシャー・スミス(英国)が今季初戦で22秒26(+1.1)の好タイムを叩き出した。これには彼女自身が驚いた。
「冬季練習は順調に消化してきたけど、シーズン初レースでこのタイムに驚いています。ここに来て良かった! この素晴らしいスタジアムで行われる世界選手権を楽しみにしています」と大喜びの表情だった。
女子3000mは3月末の世界クロカンを制したヘレン・オビリ(ケニア)が、宿敵のゲンゼべ・ディババ(エチオピア)を下して優勝。「世界選手権は5000m、10000mの2冠獲得を目指す」と話した。世界選手権の結果を受けて、東京五輪の目標を決めるとか。ディババは「世界選手権は1500m一本を目標にします」と語った。
セメニャ 最後のレースか
IAAFが定めた女子選手のテストステロン値を制限する新規則に対するスポーツ仲裁裁判所(CAS)への意義申し立てが棄却された女子800m五輪2連覇のキャスター・セメニャ(南アフリカ)が、新ルールが執行される5月8日を前に行われた今大会に出場した。セメニャの出場がメディアの注目をさらっていたが、彼女のドーハ滞在先が不明で、すべてが憶測の域を出ないニュースが飛び交っていた。また、今大会が引退レースになるだろうという噂もある。
レースでは、セメニャはあたかもこれが最後とばかりにスタートから積極的に攻め、1周目を56秒66で通過したペースメーカーの後をピタリ追走。600mは1分26秒56。後続を20m以上引き離し、世界歴代4位の自己記録(1分54秒25)に迫る大会新、今季世界最高の1分54秒98で圧勝した。何をアピールしたかったのか知るよしもなかったが、レース直後に呼び止めると、無言でポーズを決めてくれたが、その後のインタビューを完全無視。無言でスタジアムを後にした。