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「世界最速男」と「チーターマン」
ジャスティン・ガタリン、ショーンクロフォード、キングッストン合宿で多いに語る

トレヴォ―・グラハムはシドニー五輪で女子3冠に輝いたマリオン・ジョーンズ、男子100m世界記録保持者ティム・モントゴメリーらのコーチで一躍名声を上げた。アテネ五輪でかれの指導下にある「Sprint Capitol」チームは、男子100mジャスティン・ガタリン(22歳、USA) 男子200mショーン・クロフォード(26歳、USA)がそれぞれ優勝。合計金2個、銀2個、銅1個を獲得した世界最強、最速チームだ。
五輪前、世界中を騒がせた一連のアメリカスポーツ界の薬物スキャンダルはグラハムが発端。とかくかれの周辺は黒い噂が絶えない。今、いろんな意味で最も熱い注目を浴びている。五輪後の「世界最速男」ガタリンのインタビューは至難の業。日本人とわかれば、マネージャーは当然のごとく“見返り”すなわち金を請求してくる。勝ったものの強み、“ノーマネー”、“ノー取材”だ。 チームは 男女10人の大世帯がジャマイカの首都キングストンでキャンプを張った。現地の有力日刊紙勤務の友人に意図を伝えて取材を依頼した。

―なぜ、ジャマイカでキャンプなのか?
ジャスティン・ガタリン(以下JG)―ジャマイカにきたのは、二つの目的があった。この時期ラリー市(ノースカロライナ州)は、まだ寒くてスタート練習は不可能だがここでは練習ができる。練習の合間に、ダグラス・フォーレスト招待競技大会(注:2000人の学生が参加)の主催者、ブライアン・スミスの招待によっていくつかの学校を訪問することもできた。われわれのコーチ、トレボー・グラハムはジャマイカ出身。彼の友人のバート・キャメロン(注:第1回世界選手権大会男子400m優勝者)がコーチするウォルマー男子高校、ダグラス・フォーレスト校、キングストンカレッジ、パパイン高校ら4校を表敬訪問してスピーチ、サイン会な どで学生との交流を深めた。非常に楽しかったね。
ショーン・クロフォード(以下SC)―われわれが予想していた以上に、学生から熱烈な大歓迎を受けた。ジャマイカは伝統的にアメリカ並みのスプリント強国。学生達からかなり鋭い突っ込みもあった。「パウエル、ジュニア世界記録保持者のウサイン・ボルトらをどう思うか?」とか。かれらの「挑戦をどのように受ける用意があるか?」とか言った内容だった。だから、ぼくはこう言ってやったさ。かれらを全く考慮していない。ぼくは五輪チャンピオンだ。なぜ、かれらを恐れなければならないか?ぼく自身を深く見つめ、考えるほうが遥かに大切なこと。もし、毎日の練習でかれらを意識すれば、レースに負けたも同然だ。自分の練習、レースに集中、なにをしなければならないか考えながらアクションを起こすことが大切と説明した。誰を恐れることもなく、意識することなく、例えば練習パートナーのジャスティンでさえ忘れなければならない。だから、パウエルを始め他の選手の存在を無視するんだと話したら、学生達はしっかり聞いてくれたね。

―ダグラス・フォーレスト競技会の印象は?
JG―さすがジャマイカだね。400mと110mhを観戦したが、走るフォームが良く、素質、意欲が伝わってくる、素晴らしい才能も持つ選手がゴロゴロしている。

―学生へのアドバイスは?
SC―生徒へのスピーチは簡単なもの。才能もさることながら、努力なしに世界の頂点に立つことはできない。自分の経験を通して練習の大切さを学び、スポーツを通して自分を発見することができるようになる。さすが伝統ある陸上競技王国、陸上知識が豊富なのには驚かされた。
JG―ぼくも同じようなことだが、他の人がTVの前で楽しんでいるあいだ、人一倍猛練習できる意志の強さがなくては成功しない、とね。

―五輪後、いつ頃から練習を開始したか?
JG―11月の初めかな。今年はこれまでのオフシーズンのように、十分に休養する暇はなかった。五輪優勝した代償に。愚痴じゃあない。遊んでいる暇がなく全国を飛び歩いて、TV、ラジオ出演、学校訪問、エミー賞発表会に特別ゲスト出演、ハリウッドのスーパ―スターと一緒に、普通ではとても叶わない経験ができた。
SC―ぼくはジャスティンほど忙しくなかった。100m優勝者は違うね。(笑う)TVには一緒に出演したこともある。有名になるのも悪くはないよ(笑う)。

―キングストン滞在中、特別な練習は?
JG―特別なことは、なにもしてない。当初の練習時間は毎朝10時からと決めていたが、あまりの暑さに参ったので、午後涼しくなった時間帯で練習を始めた。今季初めてのスタート練習を重点的に始めた。ところが、われわれが使ったトラックは競技大会用の、サーフェースが非常にハードなもの。故障が起きかねないので、練習にはもっと柔らかなサーフェースを使いたかったがその設備はジャマイカにはない。トラックでは練習スケジュールの変更を余儀なくされた。スタート練習はもちろんのこと、冬季練習のため、300,400mの長い距離を取り入れての基礎的な走り、フォームの訂正、体力作りなど、総合的なチェック、チューンアップです。さらにスピ―ドを増す本格的な練習入るのは、ここからフロリダ合宿に移動してから始まる予定です。

―ジャマイカは初めて?印象は?
JG―初めて。のんびりした雰囲気、リラックスしているところがいいね。
SC―ジャマイカの話はコーチから聞かされているし、言葉が同じなので外国にきたような気がしない。

―“世界最速男”のタイトルを獲得した気持は?
JG―言葉に言い尽くせない最高の感激だった。9歳から夢にまで見た瞬間だった。自己ベスト記録で優勝、人生最高の走りだった。これ以上の喜びはない。欲を言えば、最後の20mは固くなり、スムースな走りができていない。自分が首位を走り、驚き、感情的になって冷静さを欠いていた。ゴール手前で勝ったと思ったからね。信じられない勝利だった。ぼくはまだ22歳だ。世界の頂点に立ち、ここに長く立ちつづけることは難しいが、長く世界のスプリント界に君臨できるように努力をする。欲張って、目標は五輪2連勝、3連勝を目指したい。
SC―100m決勝は凄い接戦だったね!メダルを逃したのが悔しかったが、勝てる 自信があった200m決勝は楽勝だった。今度は100mで感激を味わいたい。

―五輪優勝者、ジェス・オーエンス賞受賞者として、これからどんな責任があると思いますか?
JG―オーエンス賞は非常に名誉なこと。アメリカの伝統、スプリンター王国の名誉を維持できたことは大切だ。五輪チャンピオンは、常にベストの状態で出場レースに勝たなければならない義務がある。トップスプリンターの位置をキープし続ける努力を怠らないこと。同時に、仲間の成長を促進できるようにサポートして行きたい。

―両雄は立たないと言いますが・・・?あなた方は仲が良い。
JG―陸上競技そのものは個人的なスポーツ。だが、日常練習では仲間同士のサポート、アドバイスが非常に重要なことです。今季はジャマイカから新しいスプリンター2人が仲間入り。大学のトラッククラブのような雰囲気がある。同じクラブに五輪100,200mの優勝者を輩出したことは素晴らしいことだ。われわれの練習パターンは昨年と全く変わらず。ぼくもショーンも、強さ、弱点をしっかり認識している。お互いの助け合いが必要で、今後も変わらない良好な関係を維持してゆくだろう。
SC―お互いに、個人的な特性が100か200mの結果に表れている。今季のぼくはさらに100m強化に興味があるし、ジャスティンは100mよりも200mの走りに努力して両種目を走るだろう。それがさらにぼくの場合、100mレースの進歩に繋がることを期待したいね。

―五輪100m優勝後、あなたの人生が変わりましたか?
JG―根本的な人生そのものが変わったとは思いません。自分自身、務めて今までの生活ペースをキープ。今までの友達、家族との付き合いを大切にしています。表面的な生活は大きく変わりました。変わらないと思っても、人がぼくを見る目が違ってきています。練習仲間、環境そのものに変化はありません。
SC−町を歩いていると、いろんな人から声を掛けられる。五輪前より、少しはぼくの顔が世に知れたぐらいのもの。アテネで勝ったからといって、総てが満足したわけではない。100m決勝は満足できない。まだまだやることがたくさんあるね。

―今シーズンからこれから4年間、追われる立場、その用意は?
JG―(頭を差して)ここをクールにキープしなければならない。今の状況、環境をスムースに維持することが可能ならば、誰にも負ける気はしない。今までは追う立場だった。追われる立場になった経験がないが、レースはノーマルな日常生活からすでに始まっている。マイペースをキープすることが最良の準備でしょう。高校、大学でも、ぼくはいつも100と200mのダブルスプリントをこなしてきた。今年も変わらないだろうね。
SC―このクラブにきてから2年目。われわれは世界最強チームだ!今年の活躍を楽しみに。

―今年の目標は?
JG―シーズン開幕から、出場する総てのレースに容赦なく圧勝したいね。ヘルシンキ世界選手権で優勝することだ。
SC―こっちも同じようなセリフさ。(大笑い)

―アメリカ五輪協会が、ジャマイカ滞在中に抜き打ちドーピングテストをしたとか?
SC―受けたよ。トップアスリートになれば、どこでいつなん時、ドーピングテストを受けなければならないのは当然なこと。驚くことではない。隠すことはなにもないから怖くもない。むしろ、われわれがしていることが正しく、クリーンであれば、われわれの悪い噂を否定する証明にもなるので、われわれが世界に向けて「クリーンだ!」と、訴える良い機会と思っている。グラハムコーチの消極的な噂が起きたのは、ぼくがここにくる前のはなしだ。それはぼくとは無関係。現在が大切なことだ。
(注:グラハムコーチはアテネ五輪大会中に、注射器にTHGが含まれた証拠物を、USA薬物エージェンシーに、BALCOのビクター・コンテがサンフランシスコ近辺のスポーツ選手に薬提供をしている手紙を添付して送りつけたことを認めた。これが発端で世界中を騒がせたマリオン・ジョ―ンズ、モントゴメリー、大リーグ一流選手らの一連の薬物使用大スキャンダルに発展した。グラハムはメキシコから薬物を購入している」と暴露されているが、グラハムはこれを強く否定している。と、NY在の知人USToday陸ディック・パトリックは言う。また、このような問題に終わりはないのだ。)

―世界記録への挑戦は?
JG−ここでぼくが世界記録短縮するだろうと予測しておく。予測記録はわからないが、どのくらいでも世界新記録なら文句はないね。

―200mの世界記録挑戦は?
SC―絶対に破ることが不可能な記録とは思っていない。記録は必ず破れるものだ。

―今シーズン開幕戦レースはいつ予定していますか?
JG―今年の室内レースは、全く走りません。冬季練習が始まったのが遅いので、調整ができていない。室内で走るときは、世界新記録を狙うような時だけだね。最初のレースは、多分、5月ごろかな?

(月刊陸上競技誌05年3月号掲載)

(望月次朗)

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