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これでよいのか?日本の長距離

世界の長距離分布図が急激に拡大してきた。高地民族のエチオピア、ケニア、エチオピアから分裂、独立したエリトリア、ウガンダ、ブルンディ、ジンバブエ、モロッコ、元ケニア選手で固めるカタール、バハリンらの台頭が著しい。

クロカンで鍛える高地民族のダイナミックな走り、そこには長距離走の原点がある。彼らが世界の長距離記録を飛躍的に伸ばし、マラソン高速化の背景となっている。

ぼくらが子供のころ、学校から最も遠いところから通学する同級生が校内長距離走で最も強かった。長距離王国、エチオピア、ケニアのランナーは、田舎育ちが多く通学で足を鍛えてきた。

かつてフィンランドのマラソン選手は強かった。スエーデン選手も長距離に強かった。両国とも自然が国土の大部分を占めている広大な国だ。人口は少ない。必要に迫って、冬はノルディックスキーが便利な交通手段だった。夏は徒歩で足を自然に鍛えてきた事実がある。

史上最強と言われる長距離選手、フィンランドの英雄、ヌルミら輩出の背景はアフリカ高地民族と、足を子供のころから使って鍛えてきた事実が類似している。

欧州で最も近代化が遅れたイタリア、スペイン、ポルトガルらの諸国が、北欧に変わって、ささやかに欧州長距離、クロカンの伝統を保持している。フランスの長距離選手は、モロッコからの移民労働者の2、3世が主力だ。

歴史的に長距離王国は、貧しいもののスポーツだった。子供のころから文明の利器に依存することなく自力で動くことによって、長距離走に必要な強靭な脚力と呼吸器官が養われてきた。

現在でも、偉大な長距離ランナーを輩出する最大の条件には、エチオピア、ケニアなどのように自然に恵まれていることがあげられる。

日本人の急変してきた生活環境で、これまでのように優秀な長距離選手を排出できるような背景が急激に少なくなっている。

ひ弱な日本選手は不整地が苦手だ。これではクロカンで世界とまともにたたかえるはずがない。

この問題を指導者はよほど真剣に考慮して適切な対策をしなければ、後手に回るだろう。

前記も重要なことだが、目先の目標達成を追わずに世界観の広がりを持つことも大切だ。04年度日本ランキングは、10000m27分後半の記録がわずか5人。これでは世界のトップと周回遅れだ。28分台の選手数だけは世界で最も多いだろうが、駅伝に通用するドングリの背比べの記録に過ぎない。

実業団、学生駅伝が華やかなため、駅伝「専用」ランナー育成に比重が置かれている。箱根駅伝の練習で、一体どのくらいの数の選手が潰れただろうか?箱根からは谷口が最後で世界的な選手を生んでいない。

トラックで鍛えてきた高岡が孤高奮闘している。彼だけがなんとか世界マラソンで通じる選手とは寂しい限りだ。

やがて前記の国が女子選手強化を計ってくるのは目に見えている。トラックの成功なくして、マラソンへの期待は望むべくもない。

来年、カタール開催のアジア大会では、800m以上の長距離種目で地元勢の上位独占は揺るがない。抜本的な指導改革がなければ日本の長距離の進歩、マラソンに将来はないだろう。

(月刊陸上競技社5月号掲載)

(望月次朗)

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