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ユース世界陸上競技選手権大会取材記

モロッコで観光地としてつとに有名なマラケッシュの空港。タラップに足をかけると、強烈な日差しが眼を射る。肌を刺す激暑だ!!

選手と一緒に、出迎えのバスで予約したはずのホテルに入ったものの、ぼくの名前がない。

スッタモンダした挙句、3時間以上待たされて部屋が決まった。何のことはない、顔見知りのモロッコ陸連の男ダウディに事情を話すと、“アッ”という間に指定のホテルに入れてくれた。

第4回ユース世界選手権大会は、当初の参加予定人数を遥かに上回る2000人近くの選手、関係者が押し寄せ、地元主催者は嬉しい悲鳴をあげた。

この大会もジュニアと同じく回を重ねるごとに拡大され、次回から参加標準記録が設定されるかもしれない。

チェックインするまでロビーで待機中に、サイド・アウイタ(中距離)、ハリッド・スカー(長距離)、イチャム・エルグルージュ(中距離)、ナザ・ビドウン(女子400mh)、かつてのこの国の英雄的な五輪金メダリスト、世界選手権で一世を風靡した選手と旧交を暖めた。

よくあることだが、後進国の観光地にはふたつの世界が存在する。現地の人の住む所と、今回のように参加選手、関係者の滞在先のホテルのある、外国から訪れる観光客用に開発された特別区域である。

このような地域は、郊外に隔離された土地に緑が豊富な公園があり、警備が完備された環境に欧州ホテル並みの水準のホテルがある。そうでもしなければ欧州からの観光客は足を運んでくれない。

モロッコは資源に乏しく、欧州から近いため観光が国の大きな外貨獲得を締める重要な産業だ。

ホテルの窓から見えるホテルの庭の椰子、芝生、プールとは対照的に、囲いの向こう側には乾いた褐色の大地が拡がっている。

外面を良く見せるためこの地域の環境整備、清潔さを懸命に保つため、炎天下でたくさんの人たちが公園の草取りをしているシュールな世界だ。

大会が開催されるスタジアム周辺は柵で囲まれ、バックスタンドは無料で開放されるが、正面は参加選手、関係者の出入りのため、現地の人たちから隔離されている。

朝9時から最初の競技開始。正午に朝の競技が終えるころ、熱風が吹きはじめる。昼飯にホテルに帰り、冷水で身体を冷やす。午後の競技開始は5時からだ。日が西に傾き始めるとわずかに吹く風に涼を感じた。

スタジアムは4本ある照明塔に、あらぬ方向を向いている8個のライトが付いている。各コーナーだけは明るいが、8時過ぎるとフィールドの真中は人の顔がかすかに判別できるに過ぎない。

写真が撮れる明るさではないし、投擲種目、特に槍投げの落下地点がどうして判明できるだろうか?こんな暗い競技場での取材は初めてだった。

五輪、世界選手権なども含めて、どこで開催されようが国際大会は毎回のように初日のトラブルは避けられない。

まだ慣れない裏方のトラブルが多い。バスが定時にこない。ボランティアが一生懸命にやるが慣れない仕事なので、スタートリストの順番が狂う。報道陣の部屋に冷房がない。(大会3日目から冷房が入った)インフィールドは45度を越える暑さで水が補給されない。(3日目から水が好きなだけ取れるようになった) レース結果が出るのが遅い。

インフィールドの係りが適当なのか?それともルールを知らないのか?走り幅跳の着地ピットのでこぼこが大きい。着地する個所が助走路より高く、選手がクレームを出した。(ゴールデンリーグでさえ、しっかり砂場を均すことができるのは少ない!!) 砂場を均す器具が次々と壊れてしまった。棒高跳でも係員が支柱を動かすのを忘れてしまい、選手がクレームを出したが競技役員が無視!!しかし、IAAFのオブザーバーに注意されて跳び直しをおこなった。

女子槍投げ決勝の練習を十分に投げさせないで競技が開始された。柵の外のコーチ連が大騒ぎするが、聞く耳を持たない。地元男子競歩選手が、周回が2周少なくゴール。観客席に陣取った各国のコーチ連が大騒ぎ。結局、この選手は棄権と処理された。

こんなことを書き出すと限がないのでこの辺で止めて置くが、マラケッシュ大会を他人事とは笑えない。91年東京陸上競技世界選手権大会でも、珍事、納得できないトラブルはたくさん起きた。

91年世界選手権大会、広島アジア大会で競技役員の寛容度、理解度、柔軟性ゼロの態度に散々な嫌な思いを経験した。このことはある本にも書いた。

日本人の競技役員、ボランティアはルールに忠実でガチガチ。総てがあまりにも融通不能な対応は、根本的に競技は何のために行われるか、全く理解していない。

競技者が1回のプレーごとに役員に最敬礼、それが最高の競技者のマナーだと教える教員、受ける競技役員もおかしな話だ。そんな国は日本だけ。

こう言うと直ぐに「日本には日本のやり方がある!」と、知ったような声が聞こえてきそうだが勘違いもいいところ。

競技は「選手」のためにある。根本的な理解がずれている。

ちょっとの機転でスムースにことが運ぶのに・・・、日本の役員はミスを恐れて頭が硬直してなにも思考、判断ができない。

前述したマラケッシュでの数々の珍事やトラブルは、日本人競技役員の“ガチガチ”態度と比較すれば、むしろ笑い話で済まされる“イイ”土産話だと思う。

バーレーン国籍の元ケニヤ選手、スーダンの短中距離選手に凄いのがいた。昔スーダンの北からナイルを溯ってウガンダに抜けたことがある。南のスーダンの人たちは大柄で足の長い中距離に最適な人種がいることを思い出した。

かれらがどのような進歩を見せるか、近い将来が楽しみだ。

(望月次朗)

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