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第15回アジア大会、中東勢の躍進、中国若手選手の活躍

ドーハ・アジア大会は、砂漠の国が43年ぶりの異常気象で豪雨に見舞われた。特に、男子全般の種目で地元カタール、隣国のバーレーン、サウジアラビアの強烈なライバル意識により、国策の選手強化策、国籍変更選手も多数出て、大躍進する大会となった。各種目別に、注目された活躍選手を取り上げてみた。

男子800m優勝者、ユスフ・サード・カメル(元ケニア、03年バーレーン帰化、25歳)父親は87,91年世界選手権800m優勝者のビリー・コンチェラ。03年1分43秒11の自己記録を持つ世界トップクラス。「勝って大変に嬉しい。勝てるだろうと思ったが、意外にレースは白熱したタクティカルなレースだったので、誰が勝ってもおかしくはなかった。」と、重圧から開放されてホッとした表情だった。

男子5000m優勝者、ジェームス・クワリア・チェプクルイ・クルイ(元ケニア、04年カタール帰化、20歳)世界のトップクラスの自己記録12分54秒58の持ち主だ。優勝コメントは「ぼくの友人で、練習仲間だった2位になったジャウエアーが強敵だと思ったが、予想以上に楽に勝てた。友人の3000m障害で優勝するはずだったシャヒーンが故障で欠場した。彼のためにも、カタールのためにも勝って大変に嬉しい。」と。

男子10000m優勝者、ハサン・マハボーブ(元ケニア、05年バーレーン帰化、25歳)元ロードレース専門。バーレーン、カタールの4選手で揺さぶりを掛けたレース。残り1周で前に出ての作戦勝ち。「初めてのトラックレースだったので、後方で様子を見ながら走った。来年からトラックに専念、大阪、北京で良い走りをしたい。勝つとは思わなかった。」と、大喜びだ。

男子1500m優勝者、ダハム・ナジム・バシル(元ケニア、05年カタール帰化、28歳)3分31秒04の自己記録保持者。ヘルシンキ世界戦手権2種目制覇したラシド・ラムジの優勝が予想されたが、伏兵のバシルが外側から追い上げて、先行するバラル・マンソール・ベラル(バーレーン)を激戦の末僅差でかわした。勝ったバシルは「ベラルは最後に疲れてスピードを維持できなかった。ゴール直前で勝ったと思った。調子が良いので室内世界記録に挑戦、そして大阪で勝ちたい。」と、大きな豊富を語った。

男子マラソン優勝者、ムバラク・ハッサン・シャミ(元ケニア、04年カタール帰化、26歳)かれは05年エドモントンで開催された世界ハーフ選手権で、勝ったと思って両手を挙げゴール直前、追い上げてきた選手に抜かれて2位になった。レース前、カバノ・コーチが「事故がなければ勝てる選手」と太鼓判をした。「あまりペースが遅いので前に出た。暑さはさほど苦にはならない。猛練習を消化してきたので、負けるとは思わなかった。次はパリマラソン、そして大阪で優勝を狙う」と言った。初マラソン初優勝の快挙だった。

男子3000m障害優勝者、タレク・ムバラク・サェム(元ケニア、05年カタール帰化、18歳)元世界ユース選手権優勝者。カタールの英雄、この種目で世界記録保持者のシャヒーンがアキレス腱の故障で欠場。レースは中国選手が大きく先行したが、最後はバーレーン、カタール選手に捕まった。「優勝して大変に嬉しい。最後の600mで勝てると思った。練習は南アで行ってきた。シャヒーンの欠場は残念だが、いたらいいレースができただろう。」この中国選手が3位になった。かれは中・長距離で元ケニア人以外の唯一のメダリストだ。

110mH優勝者、劉翔は「決勝は楽に走ろうと思ったが、以外に詰まってきたのでがんばって走った」と、苦笑。アジアでただ一人の世界記録保持者、五輪優勝者は、紛れもないアジアのヒーローだ。ゴール前に陣取った中国「加油(がんばれ)軍団」に手を振って応えていた。

男子フィールド種目は、世界的なレベルからすると低調だが、10ヶ月契約でフィンランドから特別コーチを招聘した効果か?槍投げで朴財明(韓国)が優勝するなど、外国人コーチらの影の支えもあった。カタールはイタリア人のレナト・カノバ、バーレンはケニア人のマイク・コスゲ、サウジの走り幅跳びは現走り幅跳び世界記録保持者のマイク・パウエルらなど、多くのスペシャリストが陰で支えている。サウジには今季世界3位の8・48mを筆頭に8m39,8m25,7.91mらの世界トップクラス選手がいる。

一方、女子選手は前大会で活躍したインド、スリランカが大きく後退。代わって2年後の北京五輪強化のためか、若手中国選手の活躍が目を引いた。しかし、記録的には世界との隔たりはまだ大きかった。優勝者の中でも特異な存在は、ルカヤ・アル・ガサラ(バーレーン、24歳)が100mで3位、200mで劇的な優勝を飾った。保守的なイスラム国では、肌を現さないイスラム風習、ヒジャブ、長袖、タイツ姿の選手が出場していたが、一躍バーレンのヒロインになった。鼻息も荒く「わたしは誰よりも早く、強く、優勝は当然なことだ!100mは調子が悪かったから200mにすべてをかけた。」豪語した。

大会前から800,1500m2種目優勝が確実されたマリヤム・ユスフ・ジャマル(元エチオピア、05年バーレーン帰化、22歳)は、これといったライバルも見当たらなく、2種目とも大差であっさり優勝。世界トップランナーの実力を見せ付けた。「記録より勝つことが大切。目標の2種目制覇できて大変に嬉しい。思ったより楽に勝てた。」と、ニッコリ。

女子槍投げでただ一人60m大台の投擲で大差をつけて優勝をしたブオバン・パマン(タイ、23歳)は、ウズベキスタンのコーチの指導によって自己新記録も達成した。「銅メダルを欲しかったが、まさか優勝するとは思わなかった。昨夜、ダイヤモンドの夢を見ました。優勝は夢のお告げがあった。」と、大喜びだった。

中国若手選手の活躍が目立った中で、ヘルシンキ世界選手権女子ハンマー投げ5位の実績を持つ張文秀(20歳)は、5回目の投擲で自己の持つアジア記録を1m近く更新するアジア新記録74.15mを投げて優勝。まだ若いだけに、今後どれだけ記録を伸ばしてゆくか楽しみだ。また、女子マラソンで独走。2位に大差をつけて優勝した周春秀(28歳)の実力は別格だった。06年3月12日、ソウルでサブ20分突入した2時間19分51秒の実力の持ち主。大阪、北京五輪で日本選手のライバルになるのは必至だ。

この他、5000m、400mH、20km競歩、三段跳び、砲丸投げなどで優勝した中国若手選手だが、まだまだ世界との距離は大きな隔たりがある。


(月刊陸上競技誌、07年2月号掲載)

 
(望月次朗)

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