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劉翔には悪いが・・・、五輪優勝はオレのもの

男子110mhは、伝統的にアメリカ選手らの独占種目だった。が、最近、この種目の勢力分布図が大きく変わってきた。アテネで劉翔が優勝。世界をアッと言わせた。ここ4年間、劉翔の世界新記録樹立、世界選手権優勝など、ひとりの中国選手の圧倒的な強さが注目されてきたが、キューバにライバルが生まれてきた。シドニー五輪優勝したアニー・ガルシアを育てたサンティアゴ・アツネス(56歳)が、手塩に掛けたデイロン・ロブレス(21歳)の成長が著しい。07年アスレティックファイナルで、並みいる世界のトップ選手を抑えて12秒92で優勝。ハードル史上最も若い急速な成長を遂げた選手。一躍、劉翔のライバルに躍り出た。劉翔もかれの成長を認識している。ロブレスの偉大な野望は、地元最大のスーパースター、劉翔に挑戦、あわよくば優勝することだ。劉翔の母国開催五輪での連勝を阻止、世界室内でスタート失敗した屈辱を晴らすことだ。

−北京五輪までの最終的な調整は。
ロブレス−これまで大きな大会に向けて常に猛練習してきたように、心身共にフルパワーで練習に励んでいる。北京五輪でキューバに、そして世界に面白いレースを捧げたい。

−冬の室内レース結果はどのように屋外レースに影響しますか。
ロブレス−今までにない結果が屋外に向けて好影響になると思います。ぼく自身もそうですが、家族、キューバの多くの人たちが五輪での大きな活躍、メダル獲得に期待をしています。始めての五輪出場が楽しみ。ベストを尽くします。

−キューバ期待のハードル陣は、どのような支援チームの構成ですか。
ロブレス−過去2年間、北京五輪ハードル選手のバックアップ体制ができました。医者、スポーツ心理学、フィジオらの専門家からなるチームです。非常にいい形でわれわれ選手をサポートしてくれます。室内レース大会中は、医者が不在でしたが、今はわれわれと一緒に行動してくれるので心強く感じます。

−あなたはこれまで世界選手権大会、パンアメリカ大会に出場経験がありますが、五輪をどのように捕らえていますか。
ロブレス−五輪出場は総てのアスリートの最大の夢です。行きたくない選手はいないでしょう。北京五輪は、アスリートとしてきっと素晴らしい経験になると思います。ぼくは110mhでトップ選手のひとりとして北京入りします。ぼくはキューバ代表選手のひとりとして、大きな期待と責任を十分認識し、しかし、トラックを離れれば中国の異質な文化、スポーツをエンジョイ、いろんな人と交流を持ちたいと思います。いろんなものを見たい。いろんな先輩から、五輪経験を聞いたことがあります。でも、競技者は常にベストを尽くすことが大切です。メダル獲得に全力を尽くし、もしそれが達成できれば最高の喜びです。

−あなたは地元の英雄、劉翔と対決しなければならないが・・・、その準備は。
ロブレス−言うまでもなく劉翔は優勝候補筆頭でしょうし、中国最大の金メダル期待の選手でしょう。それと同じように、キューバでもぼくに優勝の期待が掛ってきます。お互いに重圧はとんでもなく大きく感じます。町を歩いていると、見知らぬ人たちから声を掛けられ「がんばれ!優勝を頼むよ!」と言われます。110mhが行われる決勝チケットは完売されたと聞いているが・・・、凄い観衆の熱気だろうね。今からその日が来るのが楽しみさ。そんな雰囲気の中でレースができるなんて、アスリートとして最高の舞台を用意された出番は、キット最高の瞬間でしょう。ベストコンディション、最善を尽くして運を天に任せる。勝敗は時の運もあるし、結果がどうあろうが人生の終焉ではない。しかし、なにか信じられない偉大な結果を残して、大喜びで中国を後にするような予感がします。

−最初に劉翔と対決したのはいつですか。その印象は。
ロブレス−ぼくが最初にかれと対決したレースは、06年7月のパリゴールデンリーグだった。緊張した最初の対決だったが運良くも勝ったし、初めて13秒20を記録したレースだった。劉翔を始めて見たのは、まだぼくがジュニアの05年ヘルシンキ世界選手権だったが、その時は一緒に走ったことはありません。あのころからいい友達になれましたよ。共通の言葉は英語ですが、お互いにハードルのようにスムースにはできないので会話が長く続かないが、でも、気持ちが良く通じ合えることは確かです。ぼくも中国語を少し習い始めたが・・・、五輪までには到底間に合いそうもないね。

−昨年、あなたは上海GPに初出場したが、そのときの印象は。
ロブレス−中国でレースに出るのは好きです。会場は熱狂的な劉翔ファンでいっぱい。かれは想像以上のスーパースターです。劉翔のお陰で中国における陸上競技は、非常にポピュラーなスポーツになった。

−世界の110mhの優劣を決めるのは、ロブレス、劉翔の2人と言うが・・・
ロブレス−現在、この種目は激戦状態ですね。とんでもない!われわれ2人だけではありません。ドミニック・アーノルド、テレンス・トラメル、デビッド・オリバー、アリエス・メリットらのアメリカ選手、地元の利を生かした中国人、故障から回復に向かっているラジ・ドゥクレ(フランス)らの動向も・・・、3から4選手の誰が優勝してもおかしくない状況です。特に、アメリカはわずか6大会で優勝を逃しただけ。過去2回大会連続で負けているだけ、北京ではタイトルを奪い返しに必死でくるでしょう。

−どのように五輪110mh決勝を予想できますか。
ロブレス−アメリカ3選手、中国2、キューバ2、ドゥクレ、ジャマイカらが決勝進出を予想します。勝つにはベストの調整と集中力が必要でしょう。夏の北京は高温多湿、スタジアムは満席、異常な雰囲気の世紀の一戦になるでしょう。

−滅多に記録されなかったサブ13が、過去2シーズン何度も記録されるようになったが、世界記録更新が期待できそうですか。
ロブレス−劉翔の記録は限界に近づいていると言われているが、世界新記録はいつでてもおかしくはない。と言うのも、それほど現在のトップハードラーは質と量は豊富です。

−劉翔を破る秘訣は。
ロブレス−スポーツは、常に勝敗が存在する。かれも同じようなことを言うと思うが、われわれは機械ではないので毎回のレースに100%の力を発揮することは不可能です。劉翔は、五輪、世界選手権など総てのタイトルを獲得した偉大なハードラー。かれを破ることは並大抵のことではない。かれを破った時、わが身の確かな成長を自覚できるでしょう。

−02年ナショナルジュニアチームに入ったメリットは。
ロブレス−ナショナルチームは、110mhチームは年齢差に関係なくユニット、グループとしてハードルヘッドコーチのサンティアゴ・アンチュネスの指導の下で練習。アテネ五輪で優勝したアニー・ガルシアらと一緒に練習できることは最大のメリットがある。

−あなたはスポーツ一家の背景があるとか。
ロブレス−叔父が70年代400mhナショナルチーム選手で51秒76の記録の持ち主。母親もバレー選手でした。

−なぜハードルを始めたのか。
ロブレス−正直言って、ハードルより走り高跳びに興味がありました。ハードルは、ほぼ完璧な高い技術精度を要求される競技。完璧なテクニックを完成することに興味があったので始めたのです。だから、多分ぼくのハードリングテクニックは良いのです。

−もし、そのまま走り高跳びを続けていたら、ソトマヨールになったかも、後悔していませんか。
ロブレス−それはないでしょう。子供の時、かれのジャンプを見て憧れたものです。15歳で1.93mを跳んだころがあります。2年前、2.15mを跳んだことがありますが、それから上を跳ぶことは大変なことです。未だに走り高跳びは大好きですね。

−あなたのスポーツアイドルは。
ロブレス−ぼくにとってアレン・ジョンソンは理想像ですね。かれのテクニック、世界のトップハードラーとして10年以上君臨、世界選手権、五輪など数々のタイトルを獲得した後世に名を残す選手です。ぼくもかれのようなキャリアを残すような選手になりたいと思います。

−今季の活躍、五輪の成功を期待します。
ロブレス−家族、キューバ、世界の陸上競技ファンに、最大の努力を約束します。


サンティアゴ・アンチュネス・コーチ談

「大阪世界選手権大会は、メダルに手が届かなかったが、必ずしも失敗ではない。若いだけに学んだことはたくさんある。昨年の1シーズン室内大会で、4回サブ7秒40を記録している。これは大きな進歩だ。バレンシアの世界室内選手権で、若さゆえに大失敗を起こしたが、あれは審判の判断がすべてをぶち壊した。これらのいろんな経験から、われわれは北京五輪でメダル獲得のために最大の努力をしている。五輪メダル獲得のため、われわれはコーチ、医者、スポーツ心理学、フィジオらで構成したチームが一体となって選手のバックアップ体制を整えた。われわれはメダル獲得を至上目的としている。選手が最良の状態で、練習に集中できる環境を与えることが大切だ。これまで全てが順調に、計画に従って進行している。欧州遠征に向けて、キューバのトップ選手はベネズエラで合宿調整をしてきた。最初のディロンのレースは、ベルリンGLだったが時差などでスタートが遅れた。後半追い上げたが、13秒20で2位だった。北京五輪前、10レース出場の予定を立てている。キューバの110mhは、伝統的に過去20年にわたって世界のトップクラスの選手を輩出してきた。これまで4個のメダルを獲得、アニー・ガルシアがシドニー五輪で優勝。過去2回大会でメダル獲得をしてきた。バレンシア世界室内では、ヨエル・ヘルナンデス、女子のアナイ・テエダらが銅メダルを獲得したので、北京ではアニー、ヘルナンディス、ディロン、テエダらのメダル獲得に期待している。」

 
(08年月刊陸上競技7月号掲載)
(望月次朗)

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