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北京オリンピック開幕! 陸上男子種目展望

男子マラソン、日本選手、ケニア勢の上位独占崩しなるか

「悪条件になればなるほど、日本マラソン選手の活躍のチャンスがある」と言われるのは周知の事実だ。ひとえに、外国コーチ、選手は真夏の過酷な条件下の調整ノウハウ、経験が知らないコーチが多いためだ。世界記録保持者のハイレ・ゲブレセラシエ(エチオピア)は、持病の喘息を懸念して欠場を発表した。ケニア・トリオ、マーティン・レル(2時間5分15秒)、ロバート・チェルイヨット(2時間7分46秒)、サミュエル・ワンジル(2時間5分24秒)らは、数々の修羅場を経験、実績を残している世界最強トリオだ。ケニア史上初の優勝を虎視眈々と、あわよくば上位完全独占を狙っている。指揮するのは、名将ガブリエラ・ロザ・コーチだ。7月いっぱい、アルプスのボルザノで高地合宿で調整して北京に乗り込む。ロザは数々のタイトルを獲得してきたが、五輪優勝の美酒の味を知らない。悲願達成に用意周到な準備をしてくるだろう。アブドラヒム・グルム(モロッコ)、エチオピアトリオも侮りがたいが、ケニア選手の優勢は揺るがない。高温多湿の過酷な条件下のレースで、日本勢トリオの尾方剛(中国電力)、佐藤俊之(中国電力)大崎悟史(NTT西日本)らの国際経験豊かな試合巧者ぶりに期待をしたい。日本勢は2大会連続入賞しているが、92年以来16年ぶりにメダル獲得狙いの力走を見たい。



男子円盤投, カンテルの初優勝か

今季70m台の大台に乗せたのは、バルト海の小国の大男の2人だ。大阪世界選手権の覇者ゲルト・カンテル(エストニア)が71.88m、五輪3連勝を虎視眈々と狙うヴィルギリユス・アレクナ(リトアニア)が71.25mを投げている。この2人が優勝候補と見られていたが、エサン・ハダディが69.32mを投げて上位2人に急迫。今春、ハタディは世界の強豪に投げるたびにアジア新記録を更新して無敗を続けている。昨年のベスト記録は67.95mから、今季急成長。大台の70mに投げ込むのも時間の問題だろう。 04年世界ジュニア世界で優勝したイラン出身の異色な選手。その後、ロシアコーチに指導を受けて順調に伸びてきた。勝利インタビューはロシア語、これまで脇役から一転注目され、カメラを向けると照れながらポーズをとっていた。大阪では大試合になじめず7位に終わったが、今季大物選手に投げ勝っての価値ある連勝で自信が付いた。ハダディに継ぐ選手は、68m台を投げたイアン・ワルツ(アメリカ)、ロバート・ハルティング(ドイツ)、マリオ・ペスタノ(スペイン))らが控えている。




男子10000m、 ベケレの連覇か

エチオピア陸連の長距離ヘッドコーチ連が、北京五輪の高温多湿の悪環境対策のノウハウを知っているとは思わない。暑さ対策として、低地に降りて猛暑の中での暑さ慣れの練習をするだろうか。ケネニサ・ベケレ(エチオピア)と同僚のシレシ・シヒネの1,2位は簡単に動かないだろう。ベケレは03年からこの種目では無敗。今季もダントツの強さで26分25秒97をマーク。エチオピアの五輪5連勝は固い。ベケレの強さは、今春世界クロカンでシューズが脱げたアクシデントがあるにもかかわらず、圧勝した強さは半端ではない。シヒネも怪我もなく好調で26分50秒53。3人目の選手、トラック練習でアキレスを痛めて出場が危ぶまれたが、現マラソン世界記録保持者のハイレ・ゲブレセラシエが出場する。かれの勝負強さは抜群、エチオピア上位独占は十分あり得る。ベケレは、これまで一貫して5000,10000mの五輪2種目制覇を硬く拒否してきたが、一転、前回の雪辱を掛けてミルーツ・イフター(エチオピア)が80年五輪で成し遂げたトラック長距離2種目制覇の偉業を追う。エチオピア勢の一角に食い込める可能性は、ゼルセナイ・タデッセ(エリトリア)、エリュード・キプチョゲ(ケニア)、日本育ちのマーティン・イルグ・マサシ(ケニア)らがどこまで対抗できるか。松宮隆行(コニカミノルタ)、竹澤健介(早大)がシドニーで7位の高岡を越える健闘を期待したい。

男子800m、カキの優勝濃厚か

なにが起こるわからない800mの予想は難しい。アテネ優勝者のユリ・ボルザコフスキー(ロシア)も健在振りを発揮した。モナコGPでユスフ・サード・カメル(バーレン)と1分42秒79の同タイムで勝敗を分けた。だが、優勝候補に若干19歳のアブバケル・カキ(スーダン)を上げたい。かれは大阪で1分46秒38の6位で予選敗退したが、冬の間に大きく伸びた。室内大会から頭角を現し、バレンシア世界室内800mで優勝。スーダンの国民的な英雄だ。屋外でもいきなり1分42秒69の歴代8位。今季ランキングトップの驚異的なジュニア世界新記録を樹立。無敗を続けている。19歳と63日で優勝すれば男子トラック種目で史上最年少優勝者。1908年ロンドン五輪男子100mレジ・ウォーカー(南ア)の19歳128日を更新か。ライバルは、アテネ五輪400m準決勝に進出したスピードランナー、1分43秒07のジュメール・ロペス(キューバ)、ベテランのブラエニ・ムラウジ(南ア)が1分43秒61で追っている。カキは、タクティカルなスロー、速い展開のレースなど、いずれも柔軟に対応できる力を持っている。五輪独特の雰囲気に飲み込まれず自分のレースを全うすれば勝算は十分にあるだろう。



男子走幅跳、パナマの雄、サラディノに死角なし

今季、アーヴィング・サラディノ(パナマ)は、欧州緒戦でいきなり8.73mの大ジャンプを見せた。その1週間後のベルリンGLで軽い故障を起こして危ぶまれたが、ここにきてパリGLで並みいる強豪を押さえて8.31mで優勝。健在振りを示した。サラディニは、「助走にスピードを付けたのでコンスタントに助走が決まらない。脚にも負担が掛ってきたが、この問題は解決済みで体調は万全」メダル獲得に自信満々だ。かれに続くのは、イブラヒム・カメホ(キューバ)、8.46m、内弁慶で大試合に弱いルイス・ツトゥーマス(ギリシャ)が8.44m、ウイルフレド・マルティネス(キューバ)、サウディアラビアの2選手を含む他の8選手が8.30m台を跳んでいるが、その日の調子で結果はどうにでもなるので予想は難しい。サラディノは大阪でも見せた逆転優勝など、大試合の勝負強さと安定したジャンプには定評がある。かれの特徴は、安定した「ポーン」と高く上がる天性のジャンプ力だ。今季からさらに助走にスピードを加えて安定したジャンプに磨きをかけてくるだろう。サラディニに死角はなく、中米の小国パナマ初の五輪優勝も夢ではないだろう。




男子砲丸投、アメリカトリオの投げ合い激戦

今季、アテネ大会の銀メダリスト、アダム・ネルソンは22.12m、大阪世界選手権優勝者のリース・フォファは22.10m、室内世界選手権優勝者のクリスチャン・カントウェルは21.76mを記録。アメリカトリオは世界ランキング上位を独占。五輪上位独占を狙う射程距離にいる。五輪予選会は、フォファ、カントウェル、ネルソンの順で決着が付いたが、実力、経験、実績とも伯仲。かれらの先着争いは、「22m」以上マークが優勝ラインとレベルは高い。ネルソンは2大会連続2位、最後の金メダル獲得チャンスに大きなワンショットを決めるか。または、大試合に勝負強さをいかんなく発揮するフォファか、これまで大試合に不器用に弱点を暴露して自滅してきたカントウェルだが、ビックナ一発を繰り出す潜在能力は十分に持っている。7月27日、03年世界選手権で21.69mを投げて優勝、大阪世界選手権でもホッファ、ネルソンについで3位になったアンドレイ・ミフネヴィッチ(ベラルシ)が、5年ぶりに自己記録を31cm更新する22m00を投げた。今季アメリカ上位ランキング独占の一角を崩す嫌な相手が頭角を上げてきた。これまで鳴りを静めていたベラルシの巨漢の一投は、アメリカトリノへの挑戦状だ。かれの一発は、優勝をさらう可能性が十分にある。いずれにしても、アメリカトリオ対ミフネヴィッチの22mライン上の攻防戦から目が離せない。

世紀の110mhの一戦、劉翔−ロブレス対決

劉翔は、中国13億人期待の星。110hの五輪連勝が掛る半端なプレッシャーではない。劉翔対新世界記録保持者のディロン・ロブレス(キューバ、21歳)との優勝争いは、五輪の注目のひとつだろう。これにアメフト出身の新鋭デイヴィッド・オリヴァー(アメリカ)が加わる。110mh予選から決勝までの4日間にわたって、連日入場券は完売。決勝は中国全土が最も熱くなるだろう。劉翔はアテネ五輪優勝後、06年ローザンヌGPでアラン・ジョンソン、テランス・トラメルらのアメリカ勢を抑えて12秒88の世界新記録を12年振りに書き換えた。また、念願の世界選手権も大阪で勝って、およそ考えられるタイトルを総なめにしてきた。今季の劉翔は世界室内で勝ったものの、ここにきて大阪GPと中国オープン(プレ五輪)に出場、それぞれ13秒19,18の平凡な記録で優勝しただけだ。その後、ニューヨークGPは欠場、ユージンGPはフライング失格と、どうみても「不調」の噂を払拭できない。劉翔は、ロブレスに世界記録を奪われ、潜在性の肉離れを起こして調子は期待されたほど良くないと噂されているが、かれの動向は国家を挙げて一切極秘扱いのため真偽のことはレース当日になって見ないとわからない。劉翔は中国選手の入村式典に、仲の良いNBAのスーパースター桃明と並んで元気な姿を見せたが、どこまで本番まで調子を上げてくるか。一方、ロブレスは、屋外シーズンに入るや急速な進歩を遂げて世界を驚かした。一ヵ月半の長期欧州遠征で調整。オストラバGPで世界新12秒87を筆頭に、88、91、96と12秒台を連発して無敗記録を更新中。これほどハイレベルのハードル選手は過去に存在しなかった。当然、五輪優勝候補筆頭の声が高い。ロブレスは、「悪いが、五輪優勝はオレのもの」と、断言して止まず、ロブレスは劉翔との対決を楽しみにしている。追われるディフェンディングチャンピオンの連覇か、新鋭の世界記録保持者が勝つか、世紀の110mh決勝から目が離せない。

男子400mH為末大、調整は順調、準決勝が鍵

7月25日、ロンドンGP400mhに出場した為末大(APF)は、予想以上に悪い51秒36で8位になった。大阪世界選手権覇者のケロン・クレメント(アメリカ)が48秒36で優勝した。3年ぶりにレベルの高い欧州GPに出場した為末はこうレースなどこう説明した。

「走る前の調子は良かったんですが、スタート直後から右太ももの裏が痙攣。1台目と6台目で足が合わなかった。1周回るのがやっとの状態でした。最後は脚が怖くて踏ん張りも効かない状態だったので記録なあんなものでしょう。でも、以外と抜かれるのが遅かったので、前半はそれとなく走っていたんですね」と苦笑いした。

五輪を目の前にして、この時期欧州遠征の目的は「アキレス腱やふくらはぎに不安を抱えながら優勝した日本選手権以後、それなりの練習を消化して調子は上がってきています。しかし、日本で合宿しながら負荷が掛る練習をするよりは、少し迷いましたが、これまで何度もエドモントン、パリ、ヘルシンキ世界選手権前も、欧州GPのレース出場して「質」の高い練習をして調整してきた経験があります。今度も以前と同じような調整がいいじゃあないかと思ったからです。」と説明があった。

7月29日、為末は五輪前の最終モナコGP戦に出場。49秒51で7位に終わった。ダニー・マックファーレン(ジャマイカ)が48秒39で優勝した。

為末は、「今日はアップから疲れていた感じでで動かなかったが、ロンドンより良く走れた。あんな調子の感じで49秒51は悪くないと思います。右の尻の裏が肉離れしそうだった。ここで48秒台が出たら凄いこと!ここに来る前合宿の疲れがそのまま残っている感じで、この疲れを徐々に取ることで順調に五輪前に調整できそうです。今日の段階では60%の力でしょう。問題は準決勝でどんな走りができるかが、まあ、いつものことですがそこが問題です。少なくとも予選で48秒前半、準決で47秒台に持ってゆかないと通過は難しい。これで調整の目安が明確に見えてきました」と、笑顔で競技場を後にした。

 
(08年月刊陸上競技9月号掲載)
(望月次朗)

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