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抜本的な改革なければ、日本のマラソンに将来はありえない

日本の陸上長距離関係者は、「ハイレの10000mの記録との相関から言えば、3分台突入に驚きはない。今後は2時間1、2分台も可能性はある」とか、いかにもそれらしい答えが聞こえそうだが、今ごろになって危機感を募らせても、そんなことは何年前に素人でさえも理解していた事実。ここにきて慌てふためいても遅い。日本の現実問題を直視してこなかった「駅伝重視」の男子マラソン選手の指導者の「ツケ」が、大きく影響してきたと言えよう。マラソンは中長距離トラックの延長線上にあることは周知の事実。抜本的なビジョン、対策の欠如であることは言い逃れができない事実だろう。

かつて80年代から90年代前半に活躍した世代は、一世を風靡してきた黄金世代だった。日本は伝統的に、平地で長い距離をこなす調整で成功してきた。かつての名選手らが指導者になっても、かれらを越す選手の育成結果が見られない。中長距離の記録に当時より大きな変化も見えずむしろ後退している。当時、日本の企業選手がはるかに恵まれた環境で世界に君臨できたのは、世界がまだ本格的にプロ化が進んでいなかったからだ。90年代の半ばになって、欧州のプロコーチの指導で世界長距離トップクラスのモーゼズ・タヌイ(ケニア)らが本格的にマラソンに参戦、大成功を収めて急激に高速化してきた。代理人制度が確立、賞金レースが増えてから、「ハングリー」のエチオピア、ケニア選手が世界のロードレースを圧巻している。ハイレ、ポール・タガートらの世界の頂点を極めた長距離ランナーがマラソンに転向して成功。99年ハリッド・ハヌーチが5分台の2時間5分42秒、ポール・タガートが2時間4分55秒、ハイレの2時間4分26秒、3分59秒と記録が急激に向上してきた。今回ハイレのハーフ通過は62分5秒。「楽なペースだった」と言う。レースの本質そのものがスピードが不可欠になって、日本では世界に太刀打ちできるランナーが育っていない。

中長距離トラック競技で世界と互角な位置にいる日本人選手が不在である実情から見ても、日本のマラソンが世界トップレベルに飛躍するのは不可能だろう。犬伏、高岡らの日本記録も高速レースに引っ張られた結果だった。悲観的な状況の中でもかすかな希望は、依然として長距離選手の数が豊富なことだ。日本には10000m28分台の選手が120名以上現存している。しかし、「サラリーマン」駅伝選手と外国の「プロ」マラソン選手のギャップは大きい。が、世界にマラソンで挑むなら、駅伝重視のメンタリティを世界に対抗するマラソンに意識を変え、スピード強化方針、日本女子並みの長期高地練習など、勇断を持って訂正してゆかなければ、日本のマラソンは衰退するのは必至だろう。日本女子に関してここでは紙面の都合で省いたが、対応が遅れると、遅かれ早かれ男子と同じ状況になるのは目に見えている。

 
(08年月刊陸上競技11月号掲載)
(望月次朗)

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