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ボルト新記録へコメントの数々

タイソン・ゲイ

ゲイシードGP100mを10秒15で優勝した直後、タイソン・ゲイはこう語った。 「今季は故障のため、満足のレースはできず、1本足で走ったような状態だった。完全復帰に向けてシーズン終了後に手術を受ける。足の故障から回復すれば、来季、自分の持っているすべてを出せばボルトに対抗できると思う。ボルトは素晴しい競技者だ。キャリアを通して争って行きたいのはオレの望むところだ。かれの出現で新しいモチベーション、ライバル争いが生まれできたことは、スポーツの進歩、発展の『美』のひとつであろう。」



ハイレとボルトについて話す機会があった。「とんでもない記録と歴史的な快挙だ。かれと7月にマンチェスターであって話したが好感を持てる大男だ。記録は長いこと世界記録として君臨するだろうが、永遠に続くものではない。あの記録だってまたいつかは破られるものだ。」

ハヴィエル・クラヴェロ・ロビンソン(キューバ、陸上競技ジャーナリスト)

「自らの23歳の誕生日を粋な陸上競技史上最高のパーフォーマンスで飾ったウサイン・ボルトは、史上最高のアスリートを証明して見せた。きっかり北京五輪後1年、史上最大の大差をつけて優勝、世界を再び驚かせた。ボルトは15歳にして地元開催ジュニア世界選手権200mで圧勝。17歳で200mを19秒93。ボルトの成長は注目されてきた。まだ、若い。スプリンターにしては196cmと身長の高い男は08年世界が驚く記録を出す前、すでに2004-07年世界トップランキングだった。ボルトはカリビア出身の偉大なるマッケンリー、ミラー、クオーリー、スチュアート、オッティ、カスバートらの伝統、業績を継承。カリビアンスプリンターの可能性を明確にした例であろう。ついに、わずか280万の小島の国民が世界最強スプリンター王国になった。かれの記録は長く世界に君臨するだろう。」

ヴァンサン・リキュー(フランス、ランニングマガジン編集員)

「ウサイン・ボルトは北京五輪でスプリント世界新記録を塗り替えた、驚くべきことは同じ快挙をベルリンで再演したことだ。ボルトはあたかも全く新しいスピードの世界を創造したようだ。素晴らしい!ファンタスティック!信じられない快挙さ!茶目っ気を出して、準決勝で故意にファオルして笑っていた。数時間後の決勝で世界新記録!並では到底できないことだ。この男はスーパンマン、飛ぶことができる!」

コース・ファン・デン・ブリンク(オランダ、陸上競技ジャーナリスト)

ウサイン・ボルトは陸上競技選手を超えた。世界選手権1週間後、オランダのサッカー選手がゴールを決めた後、ボルトのライトニング・ポーズの物まねをしていたのをTVで見た。ボルトはレアル・マドリッドの試合の練習試合でキックオフをした。かれの偉大な世界新記録が、陸上競技から飛び出して知られるようになったのは驚くべきことだ。陸上競技で自国のスパースターになった選手はいるだろうが、短期間にこれだけ世界的なスケールで認知されたのは過去に例を見ない。というのも、短に世界記録保持者ではなくかれのキャラクターも人気の秘訣であろう。道化振り、スタート数秒前、ゴール数秒後から忍耐強くファンにサインするサーヴィス精神は、これまでのスプリンターとは大違いだ。ボルトは陸上競技者として新しい可能性を作り出したが、もし、なんらかの形で新しい英雄が薬物使用にかかわったとしたら、陸上競技は大きな問題に直面するだろう。

ジャンーピエール・デュラン(フランス)

「誰も想像できなかった信じられない記録だ!かれの業績でスプリンターの概念が全く崩れてしまった。かれの出現で陸上競技そのもののバランスが大崩れ。20年前ならサルジェ・ブブカ、カール・ルイス、サウイド・アウイタらの観客を呼べる『スペースター』が数人いたが、現状ではボルトに肩を並べる選手が存在しない。国際陸上競技大会は、ボルト出場か不出場の大会の2種類に分かれてしまう。観客はボルト出場のすべてのレースに常勝、世界新記録を期待してくるだろう。かれに続くものが全く見当たらない現状では、レース前からボルト出場のレースは勝敗が決まっているので面白みに欠ける。ボルト自身も勝負にならないレースに退屈してくるだろう。ボルトのマネージャーが選手生命を考えてレース出場を最小限に落とし、希少価値を高めてくるだろうから1レース出場の破格な待遇を要求してくる。国際大会はボルトが出場しなければどんな名目をつけても観客動員が成り立たなくなるだろう。主催者は頭が痛いだろうね。一般の人たちはこれまでベン・ジョンソン、マリオン・ジョーンズらが薬物使用で陸上競技界を疑惑の目で見ているから、「クリーンかな?」程度で冷ややかな面もあることも忘れないこと。」

素晴しい高い山の頂に立つ孤高の記録:ジェ−ムス・オブライエン(アイルランド、YNアスレティッククラブ報道担当ディレクター)

ウサイン・ボルトは、北京五輪で100m9秒69,200m19秒30の世界新記録を樹立。さらに4x100m第3走者として走って37秒10の世界新記録に貢献。世界中にショッキングなインパクトを与え、一躍、未来の世界的なスプリンターヒーローになった。

でも、この時点でライバルがボルトに肩を並べることが不可能な記録ではなかった。タイソン・ゲイが昨年は9秒77を記録、巨漢ジャマイカ選手にまだしもチャレンジの可能性があった。しかし、ベルリン世界選手権でのボルトのとてつもない世界新記録100m9秒58,200m19秒19はすべての状況を一新した。少なくとも現状の世界のスプリンターが夢にも到達できない高いレヴェルにまで持ち上げてしまった。

ボルトがベルリンで打ち立てた金字塔は、1954年ロジャー・バニスター(イギリス)が人類初のサブ4分の壁を破った瞬間と、1968年メキシコ五輪走り幅跳びでボブ・ビーモン(USA)が8.90mの大ジャンプをしたのに匹敵する偉大な業績だろう。だが、かれらとの多少の違いがボルトの偉大さにはある。

確かに、バニスターのサブ4マイルは人類の夢を実現にしたが、周囲には同じような可能性を持っていた選手が多かった。ビーモンの場合、彼自身夢にも思わない大ジャンプが飛び出て彼自身も驚いた。この想像を超えた記録は、1991年の東京世界選手権でマイク・パウエルに破られるまで世界記録としてさん然と輝いた。

ボルトの場合違った。ボルト本人がビーモンと違って世界記録更新の可能性、バニスターと違ってライバルと格段の実力差があることを知っていた事実があることだ。ボルトがベルリンで出した途方もない新記録は、回りにライバルが見えない。今後も長く破られることはない素晴しい高い山の頂に立っている孤高の記録といえよう。

さらにボルトがどこまで高い頂に登ることができるだろうか・・・、が残された。

名実ともにスプリント2冠王者:クリス・ターナー(IAAF コミュニケーション部、サイトディレクター)

世界選手権男子200m決勝の夜、IAAFデイリーブリーフィングが行われたとき、元200m世界記録保持者のマイケル・ジョンソンはメディアを前にして200m世界記録の可能性を訊かれて、「ボルトは100mの世界新記録を樹立した直後で疲れて難しいだろう」と応えていた。

が、数時間後、ボルトは200mで19秒19の信じられない世界新記録で優勝。いまや世界選手権、五輪100,200mのスプリント王者になった。

このジャマイカスプリンターは、ここ2年間でこれまでのスプリント概念を一新した。ボルトはスピードの意味を別の次元に持ち上げたと言って良いだろう

北京五輪100m決勝のボルトの余裕のある走り方を見て、ベルリンではなんらかの期待をもてたことは確かだが、世界記録短縮の難しい200mで、サブ19近くまで持っていったのは驚異的なことだ。

クワべナ・オフォリ(ガーナ、ラジオ放送スポーツジャーナリスト)

2009ベルリン世界陸上競技選手権大会は、ジャマイカのスプリンター、ウサイン・ボルトが100m9秒58,200m19秒19の二つの世界新記録を樹立して歴史的な足跡を残した。100m決勝のスタート台に立った8人のスプリンターに、世界新記録を十分予期期待できたが、正直言ってまさか9秒58の記録はとても想像できなかった。また、あれだけ大差がついた決勝レースは、過去のスプリンター、カール・ルイス、ベン・ジョンソン、ドノバベン・ベイリーらと他の選手の強さと比較するとダントツの強さだ。自分の23回目の誕生日をだれも予想できなかった夢の記録、19秒19の世界新記録で自ら祝福したのも粋な彼らしいやり方。かれ曰く、「おれは世界新記録を作るために走っているんじゃあない。やがて真の伝説的なスプリンターと呼ばれるようになるために走るんだ」と言っている。 「地上最速男」、ウサイン・ボルトのレースは世界中の人たちがTVにかじりついて楽しんで見る。 ボルトのさらなる飛躍に、全能の神よ!ボルトにお加護とパワーを与えてくださることを祈りたい。

トーマス・シュテファン(ドイツ、フリーランス陸上競技専門ジャーナリスト)

わたしのウサイン・ボルトに対する意見はちょっと違う。かれの信じられない世界新記録は稀有な才能によるものと信じたい。ボルト自身はすでに15歳ごろからとてつもないスピードを記録してきた。しかし、かれの世界記録を単に喜んで鵜呑みできないのは、長い間、数々の世界トップスプリンターがドーピング問題を起こしてきた事実があるからだ。もう一つボルトに反旗を翻したいのは、事実、ジャマイカ国内に完璧なドーピンテストを行うシステムが存在していないこともある。ジャマイカで呼ばれている「インテリジェント・ドーピング・テスト」、練習中に抜き打ちテストなんかはやっていない。 わたしの考えは、典型的なドイツ人好みのネガティブ(消極的な)意見ではなく、事実、世界中を見渡してもフランス(注:提供、使用者ともにドーピングは犯罪行為として罰則される)のように厳格に法的な罰則を設けてドーピング管理をしている国が存在しないからです。

ウサイン・ボルトの走りを見るのは楽しいことだ。スタートから豪快に飛び出し、華麗でダイナミックな後半の走りは素晴らしい。かれの走りも、これまでの先輩達たち、カール・ルイス(かれはトライアルで黒とテストの結果が出たこともあるが、アメリカ陸連が隠した経緯がある)を含む選手たちが、不正の手段で素晴らしい走り、活躍してきた状況にオーバーラップすることになるだろう。

 
(09年月刊陸上競技10月号掲載)
(望月次朗)

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