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異端児テディ・タムゴ、歴代3位の大ジャンプ


鳴り物入りで開始された世界陸連が主導する新設14大会の「ダイヤモンドリーグ」(以下DLと略す)は、ドーハ、上海、オスロー、ローマ、NY大会を終えた。世界陸連が各大会の運営、メディア露出を積極的に展開。世界的な陸上競技発展を期待する新プロジェクト。7月3日ユージンで再会するまで他のスポーツ大会同様、サッカーのワールドカップ大会を避けるような形で中休みの形を取った。今季は五輪、世界選手権大会など、4年に一度大きなタイトルの試合がない。世界トップ選手にとって比較的リラックスできるシーズンと言えよう。このため種目によっては、通常シーズンよりスロースタートの印象を受けたが、前半戦とも言うべき5大会のDLを通して、ハイライトをピックアップしてみた。


三段跳びの鍵はスピード

大会ごとに各種目の結果の向上とトップ選手の顔触れが充実してきた。6月12日、NYロンダール島で開催された今季第5戦目DL男子三段跳びでテディ・タムゴ(フランス、この日の3日後が21歳の誕生日)が、最終跳躍で世界歴代3位の17.98mを跳んで優勝。20歳の若者がセンセーショナルの結果を叩き出し、NYっ子をあっと言わせた。1回目が16.47mで失敗。2回目がファオルと滑り出しは芳しくなかったが。2回目を跳ぶ前、自分に『やるんだ!』と気合を入れてスタート。「試合前、こんな結果を出すとは夢にも思わなかったが、欲を言えば、わずか2センチの差で18mに届かなかったのは残念だ」と、タムゴ節がとび出た。「今季最初の大きな大会。いつでも17mを跳ぶ自信があったが、オールソン、イドゥらを前にしてかなり硬くなった」

3回目に向かい風0.2mの中、一挙に17.61mと記録伸ばした。この島にある競技場は風向きが頻繁に変わる。4日目に追い風0.6mの中17.60mとジャンプが安定してきた。これでタムゴはかなり気が楽になり、「記録モード」にスイッチオンしたと言う。5回目に上手く追い風に乗って17.84mのフランス新記録を樹立。最終回はさらに、来る自分の誕生日に花を添えるため「18m」と欲張ったが…、歴代3位の好記録、わずか2センチ足りずに18mの大台入りを逃して悔しそうな表情だった。この記録は1995年ジョナサン・エドワーズ(英国)の持つ現世界記録18.29m、1996年ケニー・ハリソン(アメリカ)がだした18.09mに次ぐ快挙だ。また、1998年、ハンガリーで開催された欧州選手権でジョナサン・エドワーズが17.99mを記録して以来の最長記録。2位のクリスチャン・オールソン(スエ-デン、28歳)が6回目に出した17m62m、3位の世界チャンプフィリップ・イドウ(イギリス、32歳)の17.31mを大きく引き離して圧勝。

昨年トリノで開催された室内欧州選手権前、タムゴは現男子三段跳び世界記録保持者のジョナサン・エドワーズを捕まえ、面と向かって「おれがあんたの世界記録を破るぜ!」と挑戦状を叩きつけたと、エドワーズから直接聞いたことがある。また、ISEP(国立スポーツセンター、パリ東部ヴァンセンヌの森の中にある。ここのセンターは1956年ローマ五輪でフランススポーツが惨敗。当時のドゴール大統領の号令で建設されたエリート選手の合宿所。日本柔道選手らが合宿をすることでも知られている)の規律を破り、退去させられたが今季から入所を認められたなど、エピソードにはこと欠かない若気の至りで怖いもの知らず。「大口叩き」のタムゴ!は型破りの性格。2年前、世界ジュニア選手権で優勝して頭角を現してきたが、関係者の間では数十年に一人の素材と大きな期待があった。今年ドーハ世界室内選手権で17.90mの室内世界新記録で優勝し、屋外の活躍を期待された。好調の原因を「南仏で、元女子100mフランス記録保持者だったコーチのローレンス・ビリー(1989年11秒04)としっかりとスピード練習ができたこと。NYではコーチが同伴しなかったが、ケンタ・ベル(アメリカ、三段跳び選手)からも18m超えにはもっとスピードを付けるようにアドバイスされたと言う。三段跳びのテクニックより、スピードが重要だと思う。欧州選手権優勝の行方は予測が難しい。18mを超えるのが先で、そこから世界記録までまだ29cmと、とほうもない距離がある」最近、タムゴのトーンも多少落ち着いてきた。

6月20日、ノルウェーのベルゲンで開催された国別対抗戦で17.10mを跳んで3位に終わったが、タムゴの今季最大の目標は、三段跳び激戦の「欧州選手権優勝」にある。かれのジャンプから目が離せない。

好調パウエル、世界記録への挑戦

DL初戦ドーハでの記者会見に、アサファ・パウエル(ジャマイカ、28歳)は、眠気眼に黒いサングラスを掛けて出席。「どのくらいで走れるかわからないが、珍しく故障もなかったので練習は十分にできた。調子はイイよ!」と言って予選の追い風2.6mの中9秒75、決勝は9秒81で優勝。続く、オストラヴァでボルトの今季世界最高記録9秒85を破り9秒83で優勝。オスローDLは追い風参考ながら9秒72の今季世界最高記録で圧勝。パウエル復活を思わせるスプリントを魅せた。続く、ローマDMでも今季世界最高記録9秒82で圧勝。気を良くしたパウエルは、「調子はイイ。今季世界記録へ挑戦」を高々と宣言。アキレス腱消炎で大事を取ってNYDLを棄権したウサイン・ボルト(ジャマイカ)に代わって、元スプリント王者の復活、切れある走りが復活した。後半のDLにウサイン・ボルト、タイソン・ゲイ(アメリカ)らの3者が一堂に激突するロンドンDLが楽しみだ。

無敵のデヴィッド・ルディシャ(ケニア)

新世代の男子800mスター選手らの積極的なレースが面白い。ドーハでいきなりデヴィッド・ルディシャ(ケニア)が、スタートから早いペースの1分43秒45で疾走。4位まで43秒台の好レースだった。しかし、このレースにスーダンの英雄、アブバケ―ル・カキが参加していない。この種目でルディシャとカキは、世界の精鋭で力がありながら大きな大会で以外にもツキに見放されてきた。この2人がオスローDLで初めて激突。世界がこのレースに注目した。ペーサーのサミー・タングイ(ケニア)が400mを48秒97のハイペースで通過。ぴたりと背後に着くルディシャ、かれに遅れること5,6mの背後にカキが追う。ルディシャは600mを1分15秒05で独走通過。最後の100mで疲れの見えたルディシャの背後からカキが懸命に追い上げたが、わずかに及ばずルディシャが逃げ切った。優勝タイム1分42秒04,2位のカキは1分42秒23。いずれも、レースを見守ったセバスチャン・コーの持つ大会記録1分42秒33を破る新記録だった。

男子砲丸投げのクリスチャン・カントウェル(アメリカ)、男子やり投げアンドレアス・トルキルドセン(ノルウェー)、女子走り高跳びのブランカ・ブラシッチ(クロアチア)らはDLで無敗を続けている数少ない選手だ。カントウェルは、「DLに砲丸投げが正式種目になって、新たなモチベーションになったことは大変に嬉しい」と、7戦全勝を目標にしている。

一般的に、トップ女子選手のチューンアップが遅いような気がする。女子走り高跳びでのブランカ・ブラシッチ(クロアチア)対シャンティ・ハワード(アメリカ)の対決も記録が今一つパッとしない。しかし、5戦目のNY大会女子200mで今季世界最高記録が生まれた。ヴェロニカ・キャンベル-ブラウン(ジャマイカ)が好ライバルのアリソン・フェリックス(アメリカ)を激戦の末押さえて21秒98で優勝。

欧州選手権が終了するまで、ロシア勢など東欧選手がDLに参加してこない。いずれにしても、7月前半からDLがユージンから再開され、再び欧州各地を転戦、7月末の欧州選手権が終わるころにはシーズンも真っ盛り。熱戦、好記録が展開されるだろう。5戦目が終わるころ、来年韓国で開催される世界選手権大会を考慮してか、世界陸連は長い交渉の末、DLの冠スポンサーとして韓国の国際企業サムソンと契約を済ませた。

 
(10年月刊陸上競技8月号掲載)
(望月次朗)

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