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夫婦喧嘩は犬でも食わず
ワンジル調整不足でロンドン欠場

「昨年の暮れから全くついていない!」、1年ぶりにケニアの西の町エルドレットで会ったサミュエル・ワンジルがこぼした。昨年12月19日、事件はケニアのニャフルルにあるワンジルの自宅で起きた。ワンジルは自動小銃カラシニコフAK 47で妻のテレザ・ニェリ、家政婦のナンシー・ニョキを「殺すぞ!」と脅迫。止めに入ったセキュリティガードのウィリアム・マシンデを銃座で殴った事件を起こしたというものだ。マラソン北京五輪金メダリストが殺人未遂事件で逮捕されたショッキングなニュースが世界中に飛んだ。本人はこの事件を否認しており、保釈金30万シリング(約29万円)を払って年末の30日に保釈された。1月21日、ワンジルの故郷のニャフルル‐ナイロビ間の道路で運転を誤って、ワンジルの車はトラックと衝突し、路肩から飛び出してワンジルの車が横転。九死に一生を得て頭に軽いけがを負った。2月はじめの練習中に、左ひざを痛める。2月23日、妻、家政婦、セキュリティガードマンらが告訴を取り下げたが、違法の銃保持のため3月に罰金が課せられる予定だ。

これらの一連の事件のため、練習不足でロンドン・マラソンを欠場。事件の真相、世界選手権を回避して、五輪史上3人目の連覇がかかるロンドン五輪へ向けての抱負などを訊いた。

どこにでもある夫婦喧嘩!?

昨秋のシカゴ前、ワンジルは練習仲間を引き連れてこれまでの出身地ニャフルルからエルドレットに合宿地を移した。地元ではなにかと日常的に練習が散漫になるらしい。エルドレットには、かれのマネージャーが管理する合宿所があり、クラウディオ・ベラルディリ(イタリア、31歳)コーチが常時いる。かれが奔走して、ワンジルのために一軒家を契約。昨秋のシカゴで劇的な優勝を遂げた準備も、ベラルディリからの指導を受けた。この合宿所では、仙台育英高校に在籍したオーガスティン・ガテム(26歳、00−01年在籍)、サミー・カガラ(20歳、05−06年在籍)と一緒に自炊生活をしての練習。相変わらずワンジルは気紛れなところがあり、約束を数度破られたがやっとつかまえ、一連の事件の真相を訊くことができた。

おれが悪いんじゃない

‐五輪マラソン金メダリスト殺人未遂で逮捕される!と、世界中に大々的に報道された。ワンジルのイメージは大打撃を受けたと思うが、一体真相はどうなんですか。
ワンジル‐これは単なる夫婦喧嘩ですよ。(笑う)

‐ホント!?夫婦喧嘩でカラシニコフAK47を持ちだすことはないだろう。
ワンジル‐2月23日、女房、家政婦らがニャフルル裁判所に出向いて告訴を取り下げたので、この事件は終わりましたよ。

‐チャイ(賄賂の意味)で済ませたんじゃないの。
ワンジル‐(笑う)あそこまで事件が大きく扱われるとチャイじゃ済まされません。

‐保釈金をいくら払ったの。
ワンジル‐保釈金は30万シリング。

‐酒でも飲んでいて銃口を向けて「殺すぞ!」ってやって、止めに入ったセキュリティガードを銃の台座で殴って怪我をさせたと言われているが。
ワンジル‐そんなことを絶対言っていないし、銃口を向けてなかった。台座で殴ってなんかいないし、酒も飲んでいません!悪いのは連中ですよ。

‐では、なぜカラシニコフが出るの。
ワンジル‐簡単に事件のあらまわしを言うとね。そもそも、事件が起きる前から女房から離婚を言い出していたんです。金、財産が欲しかったみたい。昨年おれがナクル市にアパート2戸オレの名義で購入した直後から盛んに女房も同じような財産を欲しがり始めた。しかし、彼女はケニアの法律では両者の合意で離婚が成立した場合、財産分与は五分五分になるが、一方的な離婚のケースは申し出た方が財産分与の資格がなくなると言うことを分かったらしい。

‐そこで他の手段で金を引き出そうとした。
ワンジル‐まあ、そう言うことですね。そこでオレを怒らせてなんらかの事件を起こせば、夫の家庭内暴力で離婚が成立でき、財産分与が五分五分になると思ったんじゃないかな。オレがはめられたのさ。でも、事件が大きくなって警察の調べが始まると彼女の立場が不利になることが分かってきたのか、嘘の証言で形勢が逆転すると考えたのか、いずれにしても、彼女自ら裁判所に行って告訴を取り下げたことは事実です。この事件の真相はケニア国内新聞には発表されたし、すでに過去のことですよ。(笑う)

‐元の鞘に戻った。
ワンジル‐ぼくのマネージャーだって、同じような問題が起きたし、ケニアでは良くある金に関わる夫婦間のトラブルですよ。今じゃあ、なんとか仲良くやっています(笑う)

‐セキュリティガードマンは頬を殴られ、右手に怪我をしたらしいが・・・。
ワンジル‐かれも告訴を取り下げたので問題はありません。

‐でも、カラシニコフAK47は登録されていない不法保持では。
ワンジル‐あの銃の登録は済ませたし、未登録銃保持のケースは裁判所から罰金が言い渡されると思います。

‐そんな銃器が簡単にケニア国内で買えるの。
ワンジル‐特に、最近はソマリアから銃が大量に入ってくるのでどこでも安く簡単に購入できます。オレのところに銃を持った強盗が入ったこともあるし、今後侵入するかもしれないので、銃は護身用のもので必要ですよ。

‐日本の友達方も心配して連絡があったんじゃないの。
ワンジル‐高校の時のワタナベ監督からも電話があって心配してくれました。

‐2月21日、今度は自動車事故で乗っていた車が横転、九死に一生を得た、運が良かったね。
ワンジル‐ホント!シートベルトを掛けていたので助かった。追い越しを掛けたときにトラックと衝突して、路肩から飛び出して低いところになんども横転してかすり傷程度で運良く助かった。

‐左ひざの故障は関係ないの。
ワンジル‐関係ありません。この痛みは2月ここで練習を始めた時に、ちょっとしたことで痛ためたので、大事を取って練習を休んでいます。

‐4月17日開催されるロンドン・マラソンの出場は。
ワンジル‐出場はしないでしょう。まともな練習も消化できてないので、練習不足で、出場しても勝てなければ出場しても意味がないので、ここで故障を悪化させるより欠場することが賢明でしょう。

‐昨秋のシカゴのように、練習をまともに消化せず、途中棄権もあり得る不調ながらも、いざレースになると40kmからゴールまでツガイ・ケベデ(エチオピア)と熾烈な争いを演じて最後のスプリント争いで競り勝った。ケベデとの再戦はありえないのか。
ワンジル‐シカゴは練習不足で完走できる状態ではなかった。シカゴはまさかの優勝だったが、ケベデに2度続けて負けるわけに行かないから必死だった。でも、ロンドンに出場することは、まずあり得ないでしょう。

‐世界選手権出場は。
ワンジル‐ありません。世界選手権よりシカゴかNYマラソンを走る予定です。このほうが条件はイイ。来年は五輪2連覇が掛っているので体調を万全に整えて、史上3人目の五輪マラソン2連覇、ケニア選手で初めての優勝を狙います。

‐最後に東北の災害を見た。
ワンジル‐ホント!凄い津波だね。TVを見ていてただ唖然。自然の猛威の前に人は無力だね。涙が出ました。友達、学校(仙台育英高校)は大丈夫かな。がんばってほしい!これ少ないが災害見舞金を渡してください。(注:ポケットから10000シリングを渡された)日本にお世話になったケニア選手が集まって日本大使館にお見舞いすることを計画しています。

 
(2011年月刊陸上競技5月号掲載)
(望月次朗)

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