shot
 
NEWS
 

ウィルソン・チェベット、今季世界最高記録で優勝、フィレス・オンゴリ、悲劇を超えて初マラソンを制す

第31回目を迎えたロッテルダム・マラソンは、「素晴らしき7人」と呼ばれる2時間5分23秒の記録保持者ヴィンセント・キプルト(ケニア、31歳)を筆頭に、5分台の選手が4人、6分台が3名の豪華メンバーで世界記録に挑戦した。スタート時の気温が12度。その後気温が少し上昇したものの、ほとんど無風状態の絶好の気象状況だった。ウィルソン・チェベット(ケニア、30歳)、キプルトの2人がゴール直前の熾烈なスプリント争いで決着を付けた。チェベットは自己記録2時間6分12秒を大幅に破る、今季世界最高の2時間5分13秒。2度目のマラソンでメジャー初タイトルを獲得した。女子は山梨学院付属高校卒、一昨年までホクレンに所属していたフィレス・オンゴリ(ケニア、25歳)が、ゴール手前のスプリント争いでヒルダ・キベット(オランダ、28歳)を7秒差で破り2時間24分20秒で初マラソン初優勝。ホクレン所属中は、練習拠点は山梨で高校時代の恩師である秋山勉(山梨学院大・上田監督の義父)から指導を受けるなど、8年間日本で走り一昨年ケニアに帰国。その後、本格的にマラソンに取り組んだ。しかし、昨年3月の兄の死、7月の流産など、不慮の悲劇に遭遇。悲しみを超えての初勝利。ゴールの瞬間、喜びを身体全体で表して飛びこんだ。レース後の記者会見は、「勝利は兄に捧げる・・・」と絶句。同席した2位のキベットも貰い泣きして言葉にならず。そのまま記者会見は、優勝の晴れやかな歓びとは裏腹に、湿った奇妙な雰囲気の涙で終了した。

25kmまで世界新記録のハイペースだったが

ケニア、エチオピア勢がたがいに潰しあいのハイペースで飛ばした。

最初の5kmを14分38秒、10kmを29分09秒、43分49秒、ハーフ通過が予定の62分よりわずか7秒遅れだったが、世界記録を10秒上回った。しかし、明らかに25km手前からペースダウン。後半になると、ケニア2選手のキプルト、チェベット対エチオピア2選手のゲツ・フェレケ、チェレ・デチャサ4選手の争い。30kmを1時間28分42秒で通過。32km地点を過ぎたころから2人のエチオピア勢が脱落、優勝争いには2人のケニア選手が残った。最後の1kmを残した地点で、2時間6分12秒のチェベットがスパート。一挙に2時間5分13秒のキプルトを引き離して、自己記録を大きく更新する2時間5分27秒の今季世界最高記録で初優勝。ウィルソン・チェベットは「35km過ぎると2位になったヴィンセント・キプルトと2人が残った。41kmを過ぎた勝負どころでスパート。キプルトと最後まで争った結果。自己新記録の2時間5分27秒で優勝したのは大変うれしい。」と語った。



オンゴリ、兄の死、流産の悲劇を超えて

レース後の記者会見で、「この優勝は兄に捧げる。兄に最初のマラソンはサブ25分台で走ることを約束。昨夜ゼッケンの裏側に2時間24分59秒と書いた。目標を達成、しかも優勝したので最高です」と言うまでがやっと。あとは兄を思い出したか泣き出して声にならない。司会者が矛先を2位の自己新記録の2時間24分27秒で2位のキベットに向けたが、彼女もオンゴリの話に貰い泣きして声にならない。しばらく待ったが、司会者は記者会見を続行するのを止めた。

オンゴリのガブリエル・ジェンティル・コーチに聞いた。

「フィレスは日本からケニアに帰国後、最も親密な兄が昨年3月に亡くなり、あまりに親密だったために、原因を聞くのがはばかられたので知りません。続いて、7月に流産したので、連続して悲劇が起きました。精神、肉体的にもそうとうなショック、ダメージを受けたでしょう。昨年はまともに練習ができなかったが、11月ごろからやっと立ち直りを見せてジョギングを開始。わたしの作成した練習プログラムで本格的に走ることを始めたのは12月です。当初、ボストンを走らせようと思ったが、デビュー戦なのでボストンより比較的に競争が緩い、しかも平坦なコースのロッテルダムに決めた。マラソンデビュー戦なので、今回2位になったヒルダ・キベット(オランダ)を追って走るように伝えた。余力を残したゴール。最後のスプリント勝負で優勝候補のキベットを差して、目標だったサブ25分で優勝した。

16歳で日本に行き、8年間の長期にわたって異文化の世界で生活した柔軟性のあるものの考え方。日本の高校、実業団に入って自分の特性を確実に伸ばしてきた実力者。フィレスはいろんな意味でケニアの素質と日本での良い部分をしっかりと身につけた稀有なモデルケース。毎週、しっかりと消化した1週間の練習経過をメールで報告してくる。これまでのアフリカ選手で経験したことのないまじめな子です。外国人にとって習得の難しい日本語をしっかり習得したらしいが、日本へ渡った多くのケニア選手のなかでも彼女は特異な選手だと思う。子供を欲しがっているようすだが、できればここ2年間は子供作りより(笑)、世界選手権に出場、五輪とメダル獲得に目標を置いてほしい。マラソンの練習、経験をしっかり積んで大きく大成してほしいものです。

 
(2011年月刊陸上競技6月号掲載)
(望月次朗)

Copyright (C) 2005 Agence SHOT All Rights Reserved. CONTACT