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ムタイ大会新記録。歴代4位の好記録で初優勝

第31回ロンドンマラソンは絶好の天候に恵まれ、エマニュエル・ムタイ(ケニア、26歳)が万年2位の汚名を返上した。30km地点を過ぎてから独走、2時間04分40秒の歴代4位の好記録で悲願の初優勝を達成した。2位争いは、2時間05分45秒の同タイムながら、マーティン・レル(ケニア、32歳)がパトリック・マカウ(ケニア、25歳)をゴール手前のスプリントを制して先着した。女子は、マリー・ケイタニ(ケニア、31歳)が2度目のマラソンながらハーフマラソン世界記録保持者の実力をいかんなく発揮。久々のサブ20≠ニなる2時間19分19秒の歴代7位の好記録で初優勝した。一方、日本女子勢は1月の大阪国際を2時間26分29秒で制して、テグ世界選手権大会代表が確実な赤羽有紀子(ホクレン、32歳)が、2時間24分07秒の自己新記録で6位に入ったのが最高。世界選手権の最後の選考レースだった名古屋国際が震災の影響で中止となり、代替選考会に指定された国外3大会のうち、ロンドンに有力選手が集中。対象選手ではマラソン2度目の野尻あずさ(第一生命、29歳)が2時間25分29秒の12位、藤永佳子(資生堂、30歳)が11秒差の13位で続いた。




中盤で勝負を仕掛けたムタイ

激戦が期待された男子の勝負は、以外とあっけなかった。マーティン・レル(ケニア、31歳)、左ひざの故障で出場を棄権したサミュエル・ワンジル(ケニア、25歳)をのぞく、北京五輪、09年世界選手権の全てのメダリスト全員が出揃ったが、33km過ぎてペーサーが去った直後、エマニュエル・ムタイ(ケニア、26歳)が、「Let go!」と、他の選手に呼びかけて満を持してペースアップした。この時点でトップ集団の構成は、ムタイ、レル、マカウ、アベル・キルイ、ジェームス・クワンバイらのケニア勢のほか、2連勝を狙うツエガイ・ケベデ(エチオピア)、マリソン・ゴメス・ドスサントス(ブラジル)、ジャウーアド・ガリブ、アブデラヒム・ボウーラマダネらのモロッコ勢の9名だった。ムタイはレースをこう語った。「最初の5km(14分34秒)で突っ込んだが、ハーフを設定タイムの62分より44秒遅れで通過。目標記録の2時間04分より遅れていた。調子は良かったのであそこはペースアップの絶好のチャンスだった。でも、残り10kmもあるのでだれも慎重になって追ってこない。そこで思い切ってどこまでやれるか一人で先行した。2連勝を狙うツエガイ・ケベデ、パトリック・マカウ、マーティン・レルらを警戒しなければならなかったが、勝つことしか頭になく、全力で逃げた(笑)。ぼくは07年のアムステルダム(2時間06分29秒)で勝っているが、ロンドンで最初に走った08年(2時間6分15秒)と09年(2時間6分53秒)は2年連続の4位だった。ベルリン世界選手権で2位(2時間07分48秒)、10年のロンドン(2時間6分23秒)、NYで2位(2 09分18秒)と、これまで一度も大きなレースで勝った経験がないので、タイムよりも絶対に勝ちたかった。念願の優勝を達成して大変に嬉しい。これで俺は偉大なマラソン選手の一人になったと言っても良いだろう。世界最高のレースの一つであるロンドンで2時間4分のタイムで優勝したランナーだ。自己新記録も2時間06分から4分に短縮したし、これ以上の欲は言わない」と、マネージャーと一緒に満面の笑顔を見せた。

ムタイの後半は61分56秒と前半を大きく上回り、30−35kmの5kmのスプリットは14分16秒という高速だった。2位のレルに1分5秒の大差をつけて優勝したのは、1986年瀬古俊彦が2時間10秒02で優勝し、2位のハーグ・ヒューズ(イギリス)に1分40秒の大差で勝って以来の圧勝だった。

大半の予想を覆した3年ぶりのレルの復活は驚いた。レルは腰の故障などで北京五輪以来となる本格的なレース出場。出場を決意したのが3週間前だという。ムタイが攻勢に出たが、レルはムタイを追わず、マカウ、マリソン・ゴメス・ドス・サントス(ブラジル)らと並行して走る。レルは「ムタイが飛びだした時、彼のスピードに対抗してどのように身体が反応するか不安だった。もし、あそこで追ったならば最後まで続かないだろうと思い、追走しなかったのは賢明だった。レース前、ぼくの予想タイムは10分。トップ10にはなれるだろうと思っていたが…。自己最高記録の05分15秒に近い5分45秒で完走。まさか5分台のタイムで、しかも2位になれたのは僕自身も予想外で驚いている。最近、は友達と一緒に練習している。1ヵ月半前、国内クロカン選手権でデヴィッド・ベッドフォードに逢った時、調子が上がらないのでロンドンを欠場することを伝えたが、その後の練習で調子が上がってきたので急遽出場を決めた。まだまだ走れそうだよ。久しぶりの好記録、好結果に自信がついた」と、表情が明るかった。

昨年のロッテルダムを2時間04分48秒、ベルリンを2時間05分08秒4の好記録で連勝中のマカウは、ゴール直前のスプリント争いで3位。「レース前から膝と腰に問題があった。22km地点で転倒。棄権しようと思ったが、思い直して走りだした。最後のスプリントで3位になったが、自分のベストを尽くした」とサバサバしていた。

2連勝を狙い、記者会見で「世界記録に挑戦する」と自信満々だったケベデは、30km過ぎてからに腹痛を起こしてペースダウン。コーチは2月に踵の故障で1か月間練習を中断した影響は大きいと言ったが、ケベデは「ハーフを非常にリズム良く通過したが、30km過ぎてから腹痛を起こした。練習不足はそれほど影響があったとは思えない」と語った。

2時間04分40秒の大会新記録は、歴代4位の今季世界最高。今季を最後に第一線から引くデヴィッド・ベドフォードは「積極的なレース展開で好記録が出た。選手の健闘に感謝する。このコースでも世界記録更新の可能性を示した」と結んだ。次のディレクターには、創始者の故クリス・ブレイシャーの息子の就任が決まっている。

ケイタニ、歴代7位のサブ20

女子はマリー・ケイタニがいとも簡単に優勝を決めた。22km地点をからゴールまでひたすら一人旅。今年1月UAEのアルカイマ・ハーフで65分50秒の世界記録を樹立。マラソンは2度目ながらも、自慢の高速で自信たっぷりに世界の強豪を簡単に振り切った。自己記録を約10分短縮しての2時間19分19秒。3年ぶりのサブ20£B成、史上10人目のサブ20<宴塔iーとなった。この記録は08年のベルリンでイリナ・ミキテンコ(ドイツ)が記録した歴代4位のタイムと同記録だ。ケイタニは優勝の喜びをこう語った。「今回は2回目のマラソン。ハードな練習でしっかりと走り込み、コンディションは良かった。自信もあったが、コースがNYと違って平坦で走りやすく、天候も幸いした。勝って本当に嬉しい!」これでケイタニは世界選手権、ロンドン五輪優勝候補筆頭に上がった。

最初の5km、昨年の優勝者リリヤ・ショブホワ(ロシア、34歳)らマリー・ケイタニ(ケニア、29歳)、イリナ・ミキテンコ(ドイツ、38歳)、エドナ・キプラガット(ケニア、31歳)、アスカレ・タファ(エチオピア、27歳)、アツェデ・バイサ(エチオピア、24歳)、アセレフェ・メルギア(エチオピア、25歳)、ベズネシュ・べケレ(エチオピア、24歳)、アベル・ケベデ(エチオピア、22歳)らの9選手が16分16秒で入った。ハーフを70分、2時間20分ペースでトップ集団を構成。第2グループにアジア大会で活躍した中国2選手、ロシア2選手らが含まれ、それよりわずかに遅れて7人の日本選手勢が一団となって追った。

ショブコワが先頭になってレースを引っ張ったのは22km地点まで。ハーフを70分22秒で通過すると、ショブコワがペースアップ。それまで背後でレースの流れに身を任せていたケイタニが、ショブホワと並走してさらにペースアップ。たちまちトップに立ち、その差をグングン広げて独走態勢に入った。30km地点で約27秒の大差をつけると、25−30kmの5kmは16分ジャストの高速ペース。落ちてくるのを待ったのか、勝負を諦めたのか、だれもケイタニのスピードについていく気配がなかった。ショブホワ、キプラガトらが2位争い、ケベデはさらに遅れだした。30km地点を過ぎるとケイタニのスピードはやや落ちたものの、大きなリードで余裕の走りだった。

ケイタニは、07年世界ハーフを66分48秒で2位。しかし07年、ハーフ61分27秒の記録を持つロードのスペシャリスト、チャールス・コエチと結婚。08年に出産のため競技活動を一時中止した。しかし09年、2年間のブランクを経て競技に復活し、各地のハーフマラソンで連勝。09年バーミンガムで開催された世界ハーフを圧倒的なスピードで優勝。その大会で2位となったフィリス・オンゴリと同じジャ二・マドンナをマネージャー、イタリア人のガブリエレ・ジェンティリをコーチとしている。

2位のショブホワは、ケイタニのスピードに完全にギブアップ。「もちろん、負けて悔しいが、昨年シカゴで出した2時間20分25秒を10秒上回る20分15秒はロシア新記録なので良かった。ケイタニが前に出たとき、後半に捕まえるチャンスがあると読んでいたが、そのチャンスは全くなかった。ハーフマラソンの世界記録保持者だけに、スピードは大変なもの。彼女を追うのを諦めて、前を行くキプラガットを抜いて2位確保を目指した。ロシア新記録についてはゴールまで全く考えもしなかった」

昨秋のNYを制した3位のエドナ・キプラガトは「ケイタニが前に出たので、追ったがとても追いつけなかった。ショブホワにも抜かれたが、ゴール後にタイムを見て信じられなかった。まさか自己記録を約5分短縮したタイムで走っているなんて感じなかった」と満足した様子だった。

 
(2011年月刊陸上競技6月号掲載)
(望月次朗)

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